2024年4月14日日曜日

疲れたときこそ『センス・オブ・ワンダー』

新学期が始まり、子どもたちの登校を指導するために朝の街へ出かけました。その日は残念ながら大雨でしたが、新しい制服を着た中学生たちに紛れて、子どもたちは狭い場所で傘を広げつつ、元気にあいさつを交わしながら登校していました。

通常、雨の日は不快感や面倒を感じるものですが、この日は少し違った感覚を覚えました。雨が傘に打ちつける音、春のぬくもりを帯びた風、そして桜の花びらが一斉に舞い散る荘厳な光景など、新たな自然の美しさを感じ取ることができたのです。

新年度の4月がスタートし、2週間が経過しました。準備に全力を尽くした結果、身体だけでなく心も疲れを感じている時期です。年度末からの積み重なる疲労があり、やる気も少しずつ落ち始めていました。このような状況で、自分を取り戻す必要性を痛感していました。教職に20年以上従事している私でも、この時期は非常に厳しいものです。特に、若くて新しく着任した先生たちにとっては、さらに困難を感じる時期でしょう。

こんな時には、自分を自然の中に没入させる経験が特に重要だと感じています。心を落ち着かせ、再び自分自身を見つめ直す手助けとなるために、私がおすすめする1冊の本があります。

それはレイチェル・カーソンの『センス・オブ・ワンダー』です。レイチェル・カーソンは、環境意識、政策、教育に大きな影響を与えた人物で、自然界との関わりやその保護への関心を世代を超えて喚起しています。この春には、独立研究者である森田真生による新訳と解説が加わり、自然の豊かさをより深く理解する新たな視点を提供しています。この一冊が、自分自身を取り戻すための貴重な助けとなるはずです。

 

この本の中で特に心に響いた言葉があります。「知ることは感じることの半分も大切でない」というものです。私たち教育者は知識を教えることに重点を置きがちですが、感じることを後回しにすることもしばしばあります。このように、授業をただ進めるだけでなく、生徒たちの感情に訴えることがおろそかになると、心がすり減ってしまい、教師としての本来の目的に疑問を感じるようになるかもしれません。仕事の量が多いからや慣れていないからではなく、私たち自身が原体験を通じて自分を取り戻すことが必要なのです。心の疲れは、私たちが忘れがちな感情の部分を再発見することで癒されるのです。

 

最近、大妻女子大学の久保健太教授から学んだ内容にも触れたいと思います。彼は主体性には「主体性A」と「主体性B」があると述べています。私たち教員はしばしば主体性B、つまり課題をこなす能力が強調されがちですが、本来は主体性A、つまり自分の内部から湧き出る感情や感覚を大切にすべきです。これを「心が動く主体性」とも言えるでしょう。レイチェル・カーソンが述べた「知ることは感じることの半分も重要ではない」という言葉は、まさにこの主体性Aを育むための重要な示唆と言えます。感じることを通じて、私たち自身の野生の感覚を呼び覚ますことが、教育の本質につながるのです。

 

一方で、主体性Bは、感じた感覚を整理しながら「する/しない」を判断する能力です。これは頭が主導する主体性であり、OECDが言及するエージェンシー(行為主体性)がこれに該当します。主体性Aを十分に感じた後に、主体性Bを通じて知識を深めることの重要性が明らかになります。しかし、学校教育はしばしばカリキュラムを予定通り進めることに焦点を当て、生徒たちが持つ主体性A、つまり感じる力を見失いがちです。この問題は子供たちだけでなく、多忙を極める教員たちにも当てはまります。心と頭が連動しているとき、真の主体性が発揮されます。

 

成長や育成とは、「するか/しないか」の判断を複雑にし、体を使い心を動かすことです。レイチェル・カーソンのように生きることが目指せるといいです。大人にとっても必要なのは、自らの制約を解除すること。子どもたちが砂浜を見つけたら裸足で歩くように、大人も子どものようになって裸足で歩いてみましょう。自然の一部になることで、自分自身の小さな存在を実感し、内面から湧き出る主体性Aを感じることができるはずです。日常の中に心を休めるスペースを作ることが重要です。私自身も、子どもたちと朝の校庭で自然を満喫する時間を持つことで、精神的なバランスを保っています。

 

週末は、自然を楽しむ時間を大切に過ごせるといいでですね。遠足の下見ではなく、ただひたすら自然を満喫するために散歩に出かけることをおすすめします。春の空気を吸い込むことで、センス・オブ・ワンダーを引き出し、新たな感覚を呼び覚ますことができるでしょう。

2024年4月7日日曜日

「インストラクショナル・コーチング」の時代が来る

教師は悩み多き職業です。仕事に正解はないと言っていい。日々、決断と意思決定の連続です。「悩み多きは正常の証。悩みがなくなった時は教壇を降りる時である」と、私の尊敬する先輩が熱く語ってくれたのを今でも覚えています。

そのような悩みに対処するための手立てがなかったわけではありません。従来の学校は、先輩教員や同僚が、丁寧に時に厳しくリードしてくれたものです。教育委員会の指導主事や指導教諭、主幹教諭なども、教師の日々の実践を支える存在として、期待されているはずです。退職教員が、アドバイザーとして学校に関わる事例も多くあるようです。

しかし、このように教師を導いたり、助言したり、指導したりする立場にある人たちは、その立場に相応しい教育やトレーニングを受けてきているでしょうか。多くの場合、経験や自分自身の学びに基づいた知見に依存していると思われます。個人の経験則に基づいた、時に非常に偏った見識が披露されることがあるとの声も耳にします。

もちろん、豊かな教養や見識、豊富な経験をもった、力のある教師が、学校現場での仕事ぶりを評価されて、そのような立場に就くことが多いでしょうから、その人物や力量に疑いはないはずです。

しかし、この現状は打破すべきだろうと思います。

近く刊行予定の『インストラクショナル・コーチング(仮題)』★ の前書きから引用します:

「日本の学校に、教師のためのコーチングを導入したい。

これが私たちの提案であり、この本を翻訳した理由です。

本書の主題は、教師が教育専門職として成長することを目的としたコーチングです。私たちは、これを「インストラクショナル・コーチング(Instructional Coaching)」と呼ぶことにします。 教師が、教師として成長し、自身のもつ資質、能力、ポテンシャルを最大限に発揮できるようにサポートするコーチングのことです。教育者としての幸せな人生を送ってもらうためのコーチングと言ってもよいと思います。」

本書の原著者であるジム・ナイト氏らは、ICG(インストラクショナル・コーチング・グループの頭文字をとったもの)という団体を運営していますが、そのホームページ(https://www.instructionalcoaching.com)に、インストラクショナル・コーチの役割が書かれています:

「インストラクショナル・コーチは、生徒が学校で成果をあげられるように、教え方や学び方の改善を、教師のパートナーとして支援します。そのために、コーチは教師と協働して、現状の的確な把握、目標設定、目標達成のための教え方の選定、進捗の管理、目標達成までの課題解決などを行います。一言で言えば、インストラクショナル・コーチの役割は、生徒の学びが最大限になるように、教師の仕事を後押しすることと言えます。」

本書の柱は、ICGの長年の研究成果と実践に基づいてまとめられたインストラクショナル・コーチング成功の7つの要因です。

1. パートナーシップの原則
2. コミュニケーション力
3. リーダーとしてのコーチ
4. インパクト・サイクル
5. データ
6. 教師のためのプレーブック
7. サポート

経験則に基づいた指導助言ではなく、教師が自らの力で成長していくことを支援する。主人公は教師であり、コーチはあくまでパートナー。専門的で、厳しい、そして、情熱をもって教師の成長を見守る。

インストラクショナル・コーチングこそが、日本の教育のゲーム・チェンジャーになるかもしれません。


★『インストラクショナル・コーチング』(ジム・ナイト著、図書文化、2024)まもなく発刊予定です。

2024年3月30日土曜日

探究力を育む理科の授業(2)

「問い」から出発した「探究力を育む理科授業」の次の段階は「発見ボックス」をどのように使うのかということです。『だれもが<科学者>になれる!』(新評論・2020年)で紹介された「発見ボックス」のことですが、これは理科の特定のテーマに関する素材が入っており、子どもたちは自由にその素材を使って、実験や観察ができるようになっているものです。 

 

ここには、テーマに関連する科学読み物や記録をするための用紙が入ったフォルダーなども含まれています。ただ、入っていないのは「このような活動をやりなさい」という指示書です。教師の方は、この素材を利用すれば、こういう実験や観察が可能だという想定をしているわけですが、「これをこのような順番でこうしなさい」とは言わないわけです。つまり何をするのかは子どもたちの発想や考えに任されているわけです。ここが特に重要です。 

料理本のレシピのように細かく手順を示されて、その通りの順番で「こなしていく」だけの実験・観察ではないのです。このような「準備」は、生徒たちが自身の力で自然現象などを探究していくために必要な力を養ってくれます。自動車教習所でたとえれば、いきなり路上教習に出ていくのではなく、教習所内を一人で運転できるだけの力をつけるわけです。このブログでも何度か紹介された「責任の移行モデル」が適用されているということです。

 

このモデルが充分に理解されていなかったために、今世紀初頭のわが国の「総合的な学習の時間」は頓挫しました。その経験もあり、現場の先生方の中には、こうした探究型の授業に懐疑的な方もいます。そこで、まず懐疑的な方々にはもう一度、理科の授業時間の構成を見直していただくとよいと思います。『だれもが<科学者>になれる』(新評論・2020)の「p.75脚注」には次のように書かれています。

 

 授業時間という限られた時間を、何をどのように費やすかは大事な選択となります。理科教育においては、教師が教える時間は十分に確保されていても、理科(科学)の根幹である、生徒たちが問いを立てたり、それをもとに自発的に探究したりする時間はごくわずかしかないのではないでしょうか。

 

 特に最初の「授業時間という限られた時間を、何をどのように費やすかは大事な選択となります。」が重要です。したがって、指導計画が必要となります。無計画に行き当たりばったりでやっていては無駄な時間が必ず生まれてしまいます。最近の世界的な教育の潮流として、「authentic(本物であること)が一つの特徴であることがあげられます。広辞苑によれば、「科学(science)」とは、「世界と現象の一部を対象領域とする、経験的に論証できる系統的な合理的認識。」として示されています。特に後半の「経験的に論証」が大切であり、そのために実験・観察が重要視されるわけです。本物であることが、学習者の意欲を掻き立てる要素であることは間違いありません。それを限られた授業時間の中で、どのように取り上げるのか、それを構想するだけでもワクワクしませんか。教師がワクワクしなければ、子どもたちもしらけたままです。

科学者の研究で重視されるものの一つに「記録」があります。かつてのスタップ細胞事件で、この実験記録がきちんと残されていなかったことが大きな問題になりました。「探究はノートに記録して、再現性を確認する」ことが重要なわけです。このあたりのことに興味がある方は、『科学的探究の喜び』(二井將光・ちくま学芸文庫・2023)をお読みください。この本の帯には「疑問→研究→レポートへ」とあります。これぞまさに科学研究の王道ということです。最後のレポートについては、次回にふれたいと思います。

 

 最後に、一つ小説を紹介します。

 それは『宙わたる教室』(伊与原 新・文芸春秋社・2023)です。東京にある都立高校定時制に集まった様々な境遇の生徒たちが「科学部」を結成して、「火星のクレーター」を再現する実験を始めるというストーリーです。科学の面白さを感じることができて、読後には前向きな気持ちにさせてくれる一冊と言えるでしょう。 

2024年3月24日日曜日

生徒が主体的に学ぶクラスの授業にはどんな要素があるか?

 あとしばらくしたら新年度の授業が始まります。準備はできていますか?

 欧米では「いいクラスの授業はどんなふうか」の研究★①が、少なくとも50年ぐらい続いています。先週に引き続き、その一つを紹介します。

 それが小学3年生の国語の授業であろうと、8年生(アメリカの高校は4年制なので、日本の中学校の最終学年に相当)の数学の授業であろうと、効果的な授業★①を行っている教師の特性には共通点があります。ここでは、11個の特性を紹介します

 あなたは、どの特性はすでにもっていますか? 来年度、どの特性を獲得するのに挑戦しますか?


1)学びを促進する授業のルーティーンと進め方:毎日のすべての授業時間を使いこなせるように、円滑な進め方になるよう、そして教師の指示がなくても生徒は何をすればいいか分かっている状態になっている★②。少しの練習/反復を通じて、すべての生徒が何をいつ、そしてどうすべきかを知っている。年度の最初の週は(アンケート等を取ることで)生徒のことを知り、関係を構築し、一年間の明確な期待を確立するために費やしている★②。

)継続的なフィードバック:生徒が何はうまくやっているか、何は修正が必要か、そしてどのように改善できるかの情報を提供することで、絶えず生徒の向上を可能にしている★③。その際、個々のニーズに合わせた具体的で実行可能なフィードバックを提供することが大切。

3)変化を大切にしている:座席の配置、グループの構成、インセンティブ、音楽、プロジェクトなど、定期的に変更して新鮮味を大事にし、全員が夢中で取り組めるようにしている。

4)明確さ:教師自身のモデルを含めた具体的な事例、明確な評価基準、フィッシュボウル(金魚鉢)などを通して、高い期待を確立している。生徒が学び・成長できるという信念を常に表現し続けている。
5)目的を明確にしたうえでの計画:すべての時間を有効に活用し、授業が始まる瞬間から終わる瞬間まで生徒をどのように夢中で取り組ませるかを考えている。生徒の理解を常に把握し★④、次の日の学習に対する好奇心を刺激する。

6)一人ひとりの生徒をいかす指導★⑤:異なる学び方や学ぶスピード等をもった生徒が確実に成功できるように計画している。異なるレベルの質問、生徒一人ひとりがいきるグループ活動、個々の生徒のニーズに合わせた異なる宿題や評価オプションを作成するために時間を費やしている。

7)生徒と学習との関連づけ:単にその日の学習目標を述べるのではなく、学習内容を生徒の暮らしや興味関心に関連づけて提示できるようにしている。関連づけることで、生徒の注意を喚起し、より夢中で取り組めるようになる。

8)生徒を見取り続ける:授業中に常に生徒の理解度を確認している。これは、理解を示すために親指の方向(上、横、下)で理解度を示してもらったり、一人で考えて-ペアで共有し-全体に紹介する活動、あるいは授業で理解したことを概念図として描くことなどで行うことでできる★⑥。授業の中盤にそれをすることで、調整が必要な箇所がわかり、すべての生徒が授業の終わりまでに理解できるようにすることが可能になる。
9)肯定的に認める:言葉による励まし、ハイファイブ、ステッカーなどを通じて、生徒の努力を褒め称える。生徒のやりきる力(根気)と努力を認めることが、モチベーションと成長マインドセットを育み、さらに成人期に向けての回復力を育成する★⑦。
10)家族とのコミュニケーション:年度開始早々に、家族とのコミュニケーションを開始し、電子メール、メッセージ、ニュースレター、ブログ等を通じて定期的に情報を発信することはもちろん、可能な限り双方向のやり取りを図る。問題が起こった時だけコンタクトを取るのではなく、いい情報のやり取りがあるからこそ緊急時の問題解決が容易になることを忘れてはならない。

11)教える情熱と学習内容の知識を磨き続けている:教えることへの情熱と熱意を注ぐことで、生徒の興奮と学びを引き起こすことができる。生徒が夢中で取り組みたくなり、深い探究を可能にする高次の思考をもたらす質問をする★⑧。教師と生徒のこのダイナミックな相互作用★⑨は、私たちが授業でもっと頻繁に見たいことの一つ。

子どもが教師(や教科書)の指示に従う学び手ではなく、自立した学び手になる教室環境をつくり出したり、教師が教え方を身につけたりすることは、教師のやる気さえあればできることです。その際のポイントは、生徒のニーズに応えるために考え方を変えたり、方向転換する必要があるかもしれません★。しかし、その教師の決断によって得られる成果や成長は計り知れません。それは、教師にとっても、そして生徒にとっても、です。

以上、出典はhttps://www.edutopia.org/article/creating-welcoming-classroomでした。ちなみに、ChatGPTで「effective teacher」の要素を尋ねたら、若干異なる要素を回答してくれました★⑪。興味のある方は、比較してみてください。

★① 「highly effective classrooms 」ないし「highly effective teachers」の研究は、少なくとも欧米では1970年代ぐらいから、50年ぐらいは継続して行われています。なお、The Highly Effective Teacher: 7 Classroom-Tested Practices That Foster Student Successは、『あなたの授業力はどのくらい? ~ デキる教師の7つの指標』として出版されています。日本には、このような研究(および実践)は存在するでしょうか?

★②これを実現している授業が、自立した書き手・読み手・学び手を育てることを目的にした『作家の時間』や『読書家の時間』や『イン・ザ・ミドル』等で見られます。

★③ 教師がいいフィードバックのモデルを示すことと、練習によって、生徒たち同士でも効果的なフィードバックを提供し合えるようになります。そのやり方は、https://projectbetterschool.blogspot.com/2012/08/blog-post_19.htmlと『ピア・フィードバック』を参照ください。

★④ この点については、8)を参照してください。これを可能にするには、1)や2)が実現していることを意味し、教師一人ががんばり続ける一斉授業とは極めて相性も悪いです。

★⑤ これを実現するのに役立つ資料は、『ようこそ、一人ひとりをいかす教室へ』『一斉授業をハックする』『質問・発問をハックする』『宿題をハックする』『一人ひとりをいかす評価』などがあります。

★⑥ 事例として紹介されているのは、形成的評価として行うことができる50~60はある方法の3つです。形成的評価の多様な方法は、「check for understanding strategies」か「formative assessment strategies」で検索してください。

★⑦ 学びにおける成長マインドセットは、とても大切です。詳しくは、https://projectbetterschool.blogspot.com/2020/06/blog-post_21.html のなかで紹介されている『オープニングマインド』ともう一冊の本が参考になります。

★⑧ ブルームの思考の6段階をご存じですか? 一般的に、低次の思考は、暗記と理解。高次の思考は応用、分析、評価、統合(創造)と言われています。実際の授業の発問の9割以上は、低次の質問となっており、それをいかに高次の質問(生徒が学びがいを感じられる問い)に転換していくのかが大きな課題です。このことは、★⑨とも大いに関係します。

★⑨ 教師と生徒のダイナミックな関係を可能にする教え方として、https://docs.google.com/spreadsheets/d/1KXuWtBc4kl6jRr2KGwnqPAH1vSryYkM7qNXd0ArKpYU/edit#gid=1042705275 で紹介されている本や、『プロジェクト学習とは』や『PBL~学びの可能性をひらく授業づくり』などの探究学習関連の本がおすすめです。https://projectbetterschool.blogspot.com/2023/07/blog-post_16.html も参考にしてください。

 生徒のニーズは、クラス全体のニーズという側面と、より大切な一人ひとりの生徒にとっての異なるニーズがあります。ここで言わんとしていることは、前者のニーズよりも後者の一人ひとりの異なるニーズに応えることです。そのベースになるのが「発達の最近接領域(Zone of Proximal DevelopmentZPD)や「学習ゾーン」ですhttps://projectbetterschool.blogspot.com/search?q=ZPD。当然のごとく、一人ひとりの生徒は異なるZPDや学習ゾーンをもっています。教師を含めた大人も、です。それが同じ内容を同じペースで扱っても、異なる学びや結果が個々の受講者や参加者によって得られることです(大人の場合の幅は、ほぼ0%~100%。子どもの場合は扱う内容にもよりますが、10%~90%ぐらいの幅でしょうか? なお上限は、テーマ等によっては100%を超えている場合さえあります。教師/講師よりも、生徒/受講者の方が知っていることもあり得ますから。)。

★⑪ すでに情報は、地球上に存在しています。なので、それを探そうとするか否かにかかっています。残念ながら翻訳ソフトやChat GPTは100%のレベルでは変換してくれませんが、70~90%にはなりつつあります。その、10~30%は結構大事な部分なのですが・・・ぜひ、その部分を補いつつ情報ギャップを少しでも埋めてください。なお、Chat GPTに日本語で依頼する時も、同じようなギャップはまだ存在していますので、鵜呑みにしないでください。役所の文章と同じで、分かったような文章を打ち出してくれますが、心に引っかかりずらいものが少なくない気がしています。

2024年3月17日日曜日

授業に違いを生みだす10の方法

 次のような文章をしばらく前に、何人かの友人・知人に送りました。

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今朝、https://www.nwea.org/resource-center/resource/jump-start-high-growth-instructional-strategies-with-map-growth/の「View Guide」をクリックして入手した情報(「最新」ではなく、去年の9月にアップされていますが)です。こういう情報が、アメリカからはウジャウジャ発信され続けます。常によりよくすることが自分たちに課された使命であるがごとく。それに対して、日本でこの手の情報を見かけることはほぼ皆無です。その背景には、教育NPOの存在があります(日本には、ほぼ不登校生徒への対応ぐらいしか存在しない?!)。

The Transformative Ten 

Derived from observing more than 75 hours of instruction at a high-growth school, the Transformative Ten are instructional strategies that can work in any classroom, subject, or grade level to help teachers differentiate while still exposing students to grade-level content. The strategies are grouped into three themes: 

Optimizing instructional time 

 1. Provide supplemental learning time for targeted retrieval practice 

 2. Mix whole-group, small-group, and individual activities 

 3. Adjust student groups in real time 

 4. Share students and strategies within a grade level 

Exposing students to more content 

 5. Differentiate tasks within a unit 

 6. Provide targeted practice for foundational skills 

 7. Teach from multiple standards at once 

Empowering students 

 8. Create opportunities for self-directed learning 

 9. Use student discourse as formative assessment 

 10. Explicitly teach academic vocabulary

 あなたの授業(あるいは、日本で望ましいと言われている授業)は、これらの要素のいくつぐらいが押さえられていますか? 私が過去15年ぐらい紹介してきた本では、これらのすべてが押さえられています。なかでも、『ようこそ、一人ひとりをいかす教室へ』とライティングとリーディング・ワークショップ関連の本オススメ図書紹介(教師用) - Google スプレッドシートが傑出しています。

differentiateは、critical thinkingを「批判的思考」やstrategyを「方略」と直訳してはいけないのと同じで、直訳の「個別化や差別化」ではなく、「一人ひとりをいかす」と訳しました。


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 すると、ある先生がすぐに翻訳ソフトを使って、自分の回答を送ってくれました。(→以下は、その先生の回答)

 

変革を起こす10

高成長校での 75 時間以上の指導の観察から導き出された、変革の 10 は、生徒を学年レベルの内容にさらしながらも教師が差別化できるようにするために、どの教室、教科、または学年レベルでも機能する指導戦略です。戦略は 3 つのテーマに分類されます。

指導時間の最適化

1. 対象を絞った検索の練習のための補足学習時間を提供する

長文でなく、短い単語で区切って検索する練習のことだろうか。それであれば行っている。

2. グループ全体、小グループ、個人の活動を組み合わせる

個人の活動と全体の学習の行き来はよく行っているが、調べ学習のときは、個人の活動を行い続けることが多いような気がする。WWなどのように最後に共有することはあまりできていないか。

3. 生徒グループをリアルタイムで調整する

全く使い分けていない

4. 学年内で生徒と戦略を共有する

キャンプやクラブの立ち上げなど、学年で取り組むことが多い場合のみ共有して活動ができているが、教科については、クラスの垣根が高い。

学生をより多くのコンテンツにさらす

5. ユニット内でタスクを区別する

これはほとんど行えていない。社会の学習くらいだろうか。

6. 基礎スキルを対象とした練習を提供する

基礎スキルとはどういうことだろう。ドリルとかではないような気がする。もっと、学習に生かせるミニレッスンで教えるようなことだろうか。

7. 複数の標準を一度に教える

これもあまりぴんとこない。もう少し具体的な例がほしい。

学生に力を与える

8. 自主学習の機会を設ける

個々に課題を設定して行う学習のことだろうか。授業の時間を通してはおこなえていない。

9. 形成的評価として生徒の談話を利用する

ふりかえりを活用して次の授業の導入や、みんなで話し合うべきないようについて提示をすることはしているが、それでよいか・・・。

10. 学術用語を明示的に教える

国語、算数、社会、理科など教科の中使われる用語のことだろうか。それを教えるということであれば行っているが、それでよいのかな。用語を学び、その用語を使って話をすることについては、私も、子どもたちにも大切にするようにしている。

自分なりに簡単にまとめてはみたものの、こういうことでよいのだろうかと、いささか疑問です。

 

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 翻訳ソフトの精度は、まだ7~8割のレベルであることが分かります。(大意は伝わってきますが、微妙なニュアンスが伝えられない!? その2~3割が、割合以上に大事なのかもしれません。)そこで、多少の注釈(★)を加えながら、以下のように訳し直したものを彼には送りました。これで、回答は多少変わるでしょうか?

 

授業に違いを生みだす10の方法

生徒の成長(学力向上)が著しいある学校で75時間★①の授業観察に基づいて導き出されたのが「授業に違いを生みだす10の方法」です。それは、どんなクラスでも、教科でも使え、学年レベルの指導内容を押さえつつ、生徒一人ひとりをいかす教え方を実現するものです★②。10の方法は、テーマ別に3つに分類しました。

 

学習時間の最適化

1必要性の高い想起練習(何かを学んだら、その後に、それを記憶から取り出し、それについて再び考えること。このとき、学んだ後に時間をおくのがポイント)のために補足の学習時間を提供する。

クラス全体、小グループ、個人の活動をうまく組み合わせる。

3必要に応じて、グループ構成は臨機応変に調整する。

4学年内で生徒と使用する方法★③を共有し合う。

教科書を超えた学習内容を生徒に提供する

5単元のなかで、一人ひとりの生徒にあった活動★②を提供する

6基礎的なスキルを身につけるための練習課題を提供する。

7授業や単元を教える際には、一つの学習目標(学習指導要領の一つの指導事項)ではなく、複数の学習目標(指導事項)を設定する形で教える。★④

生徒をエンパワーする(生徒が元気になる)★⑤

8生徒が自立して学べる機会を提供する。

9生徒とのやり取り(対話・カンファランス)を形成的評価として利用する。

10.教科専門の語彙(用語)は意図的に教える。

 

★① たとえ、優れた成果を出している学校であっても、一つだけでいいのか、75時間だけでいいのかという二つの疑問が浮かびました。たくさんの学校や75時間以上の時間を費やしたら、違った結果になると思いますか?

★② 10の方法すべてではありませんが、その半分以上は最初のメールで紹介した「一人ひとりをいかす教え方」を可能にする方法になっています。とくに、『ようこそ、一人ひとりをいかす教室へ』が参考になります。

★③ 同じ学年を教える同僚とは、単に教える際の効果的な方法だけでなく、なんと生徒たちも交換し合うようです!!

★④ ここの3つの要素から見えてくるのは、生徒の興味関心、学び方・学ぶスピード、すでにもっている知識や情報等は多様なので、多様な生徒のニーズと興味関心に応えられる課題、授業や単元の進め方、目標設定が必要なことが分かります。『ようこそ、一人ひとりをいかす教室へ』をぜひ参考にしてください。

★⑤ この見出し自体が、とても魅力的です。日本の授業は生徒(や先生たちも!)に「自律(自分をコントロールする/律すること)」ばかりを求めて、「生徒をエンパワーする(生徒が元気になる)」授業が考えられたことはあるでしょうか? 最後の要素が、これにどう寄与するのかいまいちよく分かりません。でも、『教科書をハックする』の第3章「語彙こそが内容」と関連しているとは思います。なお、8番目と9番目の項目(および、1~7もほとんどすべて)を見事に実現している教え方が、ライティングとリーディング・ワークショップ関連(オススメ図書紹介(教師用) - Google スプレッドシート)の実践です。

2024年3月10日日曜日

子どもの自己評価は教師への最高のフィードバック「年度末の算数アンケート」

年度末が近づくにつれて、学習の振り返りや残りのテストに取り組む時期がやってきました。この機会に、おすすめの取り組みを紹介いたします。

学年末を迎えるにあたって、何もせずに終わらせるのはもったいありません。これまで取り組んできた1年間の学習の成果を振り返り、子どもたち自身から直接フィードバックを得ることができるチャンスだからです。

子どもたちが数学の学びで得たことや、身につけた力について、子ども自身が学びを振り返って自己評価をしてもらいます。これは、何が伝わり、教師としての自分にどんな課題があるのかを見極める良い機会となるでしょう。ぜひご参考にしてください。

 

これまで取り組んだ算数ノート、テキスト、参考書を用意しましょう。それらをもとに1年間の算数への取り組みを振り返ってみてください。

6年生で学んだこと例

①立体 ②体積 ③分数のわり算 ④分数と小数 ⑤整数・分数・小数と四則計算 

④量と単位       ⑤倍と割合       ⑥円周と円の面積 ⑦立体図形 ⑧分布と比 

⑨正比例、反比例 ⑩対称 ⑪拡大図と縮図 ⑫データ活用 ⑬数学者の時間

 

 

1.     この一年間、あなたは優れた問題解決者に向けてどんな成長がありましたか。

以下のキーワードから考えてみましょう。箇条書きで2つ書きましょう。

 

問題、計画、もとめること、わかっていること、つかえそうな作戦、予想をつかまえる、解決、うーん/あぁ、共有、特殊化、一般化、ふりかえり、ピアカンファランス、タイル図作戦、水そう図作戦、田んぼ図作戦、順番にやる作戦、思い込みを外す、パターンをみつけるなど

 

2.     算数で最も役にたった考え方やミニ・レッスン、作戦にはどんなことがありましたか。2つあげてください。

 

3.     算数において問題を解決するために、どうして自分が考えたことや他の人の考えなどをていねいにノートに記録することが大切なのかを箇条書きで2つ書きましょう。

 

4.     この一年間に解いた問題の中で、一番ベストの問題はどんな問題でしたか。それはまたどうしてベストなのかを書きましょう。

 

5.     友だちと相談したり、一緒に考え合うことで良かった点と課題点はなんですか。それぞれ箇条書きで書きましょう。

 

6.     問題ができないとき、わからないとき、まちがえたときこそ、どうして大事なときなのでしょうか。あなたの考えを書きましょう。また、あなたはその際、どう乗り越えてますか。

 

7.     算数において、問題をとくだけではなく、問題をつくることがなぜ大切なのかその理由を2つ書きましょう。

 

8.     よい問題解決者になるために、来年度に向けて自分にとっての目標を3考えましょう。

 

9.     算数のおもしろさや魅力とはなんですか(みなさんの意見を参考に、来年度担当する子どもたちに紹介する予定)。

 

10.  あなたは算数が好きですか? キライですか? また、それはどうしてですか。

 

 

11.  算数を担当した先生へ本音でご意見、ご自由にどうぞ。

 

以上の質問のフレームは、ナンシー・アトウェル著『インザミドル』の子どもたちの評価を参考に、算数教科において質問立てたものです。質問では、ただ算数を理解すればよいことを越えて、どのような問題解決者になってほしいのか、教師自身の願いも込められています。そのため、子どもたちからの返信は楽しみであり、また教師にとっても魅力的なものとなるでしょう。一年間の学習を振り返る時間を設け、その質問に対する返信を受け取ることは、貴重な体験となるはずです。ぜひ、この機会を活かしてみてください。

 

2024年3月3日日曜日

変容する組織リーダーのマネジメント ー ビデオで学ぶLINEヤフーの1on1

リーダーによるマネジメントに変化が起きています。

民間企業では、プライベートをコーチをつけたり、会社全体で導入している例もあるようです。学校でも、コーチングやメンタリングを活用した組織作りや研修が始まっていますが、現状はどうでしょうか?昔ながらのトップダウン型のマネジメントこそがリーダーシップであると考えている人も多いような気もします。ワールド・ベースボール・クラシックで優勝をした栗山英樹元監督やカタールW杯で世界を驚かせたサッカー日本代表森保一監督は、いずれもボトムアップ型のリーダーシップを発揮したことで注目されました。学校にも良い影響があるかもしれませんね。

今日紹介するのは、1on1という手法です。★1  1on1とは、部下と上司、あるいは同僚同士が定期的に行う一対一のミーティングのことです。アメリカのシリコンバレーでは文化として根付いているそうで、日本ではヤフー(現 Lineヤフー)が導入したことで注目され、導入する会社が増えてきているようです。★2

この度、Pivot ★3で、この1on1が取り上げられました。★3 しかも、元Yahoo社長で現在は、会長の川邊健太郎さん自らが、1on1の実演しながら、考え方やポイントを説明してくれているのです。今回は、このビデオを見ながら、1on1について学びましょう。

このビデオをは2本に分かれていて、VIDEO 1 (18分28秒から)では、1on1の基本的な考え方が紹介されています。

川邊さんは、1on1の意義は「相手の主体性を引き出し、仕事で成果がでるようマインドセットすること」と述べています。その後、1on1の重要なテクニックである「傾聴」の意義とその難しさ、そして、1on1の3つの技術である、コーチング、ティーチング、フィードバックの関係に話題が移ります。コーチング、ティーチング、フィードバックの割合が、1:6:3が良いのではないかというのは見解は興味深いものでした。ここで、VIDEO 1をご覧ください。

VIDEO 1【LINEヤフー会長に学ぶマネジメントの流儀】



[考えてみてください]
1 あなたは相手の主体性を引き出すコミュニケーションが得意ですか?
2  あなたは傾聴ができますか?途中で遮って、意見を言いたくなりませんか? 

次が、この番組のハイライト。川邊さんがゲストの女性を相手に実際に1on1を実演します(1分24秒あたりから)。これは必見です。川邊さんがどのようなテクニックを使いながら、女性から引き出そうとしているか、考えながら見てください。

VIDEO 2【LINEヤフー会長の採用㊙︎攻略法】



[考えてみてください]
1  実演の中で、ぜひやってみたい。やるべきだと感じたことは何ですか?それはなぜですか?
2  あなたの学校で、このような手法を導入してみたいですか?導入できそうですか?

振り返りの中で、川邊さんが使った技法が整理されています:
1  OPEN/CLOSE QUESTIONを使い分ける
2  本心で共感する
3  チャンクアップ/チャンクダウン
4  次回を語る
5  2 on 1で第三者とアフタートーク

それぞれ、実に興味深いですね。理論ではなく、それらを使いこなしているところが見事だと思いました。実践と経験の中で、マネジメント側のスキルも磨かれているところがすばらしい。

1on1の実践を見ると、すぐに実践に移してみたくなりますね。ぜひ、明日から実践してみませんか?

★1  1on1とは? 従来の面談との違いや効果を高めるコツ https://www.hrbrain.jp/media/evaluation/1on1

★2 本間浩輔 (2017) 『ヤフーの1on1―部下を成長させるコミュニケーションの技法』ダイヤモンド社.

★3  Pivot  映像コンテンツを通じて、ビジネスと学びを創造するスタートアップ企業 https://pivot.inc