2012年6月17日日曜日

『てん』の教訓 ④


 今回は、私が『てん』に出会う10年以上前に出会い、そして実際翻訳出版した『エンパワーメントの鍵』という本との関連で、導き出せたものを紹介します。

 私も、『てん』を最初に読んだ時は、先生の「すばらしい問いかけ」「ユーモアのセンス(吹雪の中の北極熊ね!)」「演技(金色の額縁に飾る)」に痛く感心しました。(「感動した」と言ったほうが正しいかもしれません。)
その後10回ぐらい、研修会で読み聞かせをしても下の図には至りませんでした。15回目ぐらいに読んだ時、下の図にようやく気づきました。(おそらく、1回で下の図を感じてしまう方もいるかと思います。いずれにしても、いい本 ~それがたとえ絵本であっても~ は繰り返し読むことに価値があるようです。)




 上の図を説明します。(図をクリックすると、拡大して見られます。)
 やはり、教師からの問いかけ、それも「クリティカルな問いかけ」が決定的に大切です。子どもによっては、それがないと動き出せない子も少なくないからです。(大人対象の研修でも、同じかと思います。)“クリティカル(critical)”には、“批判的な”という意味だけでなく“とても重要な”“大切な”という意味もあります。日本では「クリティカル・シンキング(critical thinking)」を「批判的思考力」と一般的に訳していますが、それも含めて、「大切なものを選び抜く力」だと私は思っています。
 その「クリティカルな問いかけ」が教師から発せられた/投げかけられたことによって、ワシテにはビジョンができました。「点を描く」という。
 その際に大切なのが、イニシアティブおよびオウナーシップとコミットメントです。全部カタカナですみません。ある意味では、全部似ています。
イニシアティブ(initiative)は、自分の選択で主体的に動き出す、という意味です。
オウナーシップ(ownership)は、自分のものと思えることです。言われたからするのではなく、主体的にするということです。
コミットメント(commitment)は、自分が主体的に決めて、心底打ち込むという意味です。人から与えられたものは、ほどほどやるレベルです。
 ビジョンと、これら3つがそろったので、インスピーレーション(inspiration)が止め処もなくわいてきました。インスピレーションは通常「ひらめき」と訳されますが、語源は「息を吹き込む」「命を吹き込む」という意味です。ワシテは、まさにそんな状態で、いろんな点を描きました。点を描かないで点を描くことまでしてしまいました。
 それ自体が、ワシテのエネルギーを引き出していたと思います。まさに、元気になっていたのです。


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 そして、展覧会で発表するチャンスをもらったことで、評価を得ると、それを次の人に提供する立場になっていたのです。今度は、自分が「クリティカルな問いかけ」をし、「ビジョン」を提供する側です。
こうして、どんどんサイクルが回っていったらすごいことだと思いませんか?★ ワシテのような「変化の担い手」が、学校にドンドン増えるということです。★★

 私は、こうした多数のサイクルを作り出す要のポジションに校長先生や指導主事や教育長や教育センター長はいると思います。ぜひ、「ビジョン」「インスピレーション」「エネルギー」を持ってもらえるような「クリティカルな問いかけ」をいろいろな人たちにしていってください。(その過程では、相手に「イニシアティブ」「オウナーシップ」「コミットメント」を提供することと、したことの「評価」は必要です。「評価」よりも「祝う」「称える」と言ったほうがいいかもしれません。)

 もちろん、こんな解釈は、作者のピーター・レイノルズさんも、訳者の谷川俊太郎さんも、ありがた迷惑かもしれません。しかし、これが現時点での私のこの本の解釈です。あと10回ぐらい読むと、また変わるかもしれません。(そうあってほしいと思っています。)


★ レイノルズさんは、ちゃんと『てん』の続編として『っぽい』をかいてくれています。ワシテに問いかけられて、線を描き始めたラモンの物語です。でも、『っぽい』はそれ以上の解釈が可能な物語でもあります。『てん』と一緒にどうぞ。教師や親、そしてもちろん管理職には必読の書です。

★★ 校内研修も教育センター等で行われる教員研修も、当初はこういうことが起こることを期待してやり始められたのだと思います。でも、いつの間にかそれをすること自体が目的化して、方法の部分がおろそかになり(改善の努力がまったく行われることがなく)、多くの者にとって無駄な時間になってしまったのだと思います。残念ながら、教員対象の研修がそういう状況ですから、それにあわせるかのように(なんと言っても入れ子状態ですから)授業も「ビジョン」「インスピレーション」「エネルギー」「イニシアティブ」「オウナーシップ」「コミットメント」、そしてしたことの「評価」が得られないものになってしまっています。

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