2015年10月25日日曜日

EQ(こころの知能指数)



EQをご存知ですか?
IQよりもEQの方が大事だと言われて、20年になりますが、教育界での認知度は極めて低いままが続いています。

IQは固定されていますが、EQは練習次第で磨くことができる、という大きな違いがあります。

を見ていただくと、その中身がわかります。

柱は、
  ●自分自身のコントロール
              ・自分自身を知る
              ・自分自身をコントロールする
              ・モチベーション
  ●関係づくり
              ・思いやり/他の人の立場に立てる
              ・ソーシャルスキル
です。

柱は大切ですが、より大切なのはそれぞれの項目です。
いずれも、誰もがもっていたらいいスキルばかりです。
表を見て、
あなたにとって、強みとして位置づけられるものは何ですか?
逆に弱みは何ですか?

この表では、ライフスキルとの対比もしています。若干切り口は違いますが、ほとんど同じです。これらを身につけることは、ますます大切になっているのではないでしょうか?(逆に言えば、身につけるチャンスが少なくなっている?)

これらは、学校のリーダーはもちろんのこと、教室のリーダーである教師はもちろんのこと、一人ひとりの生徒たちも身につけておいた方がいいものばかりです。

でも、問題はこれらをどこで(どの授業や活動で)どうやって身につける/扱うかです。

従来の一斉授業では到底無理なので、部活動(や特別活動)がもてはやされるのだと思います。
が、本当に部活(や特別活動)で身についているでしょうか?

この表の上にも書いてあるように、ライティング・ワークショップ(作家の時間)やリーディング・ワークショップ(読書家の時間)の実践は、その具体的な方法にもなっています。
もちろん、EQやライフスタイルを身につけることを目的に開発されたものではありませんが、かなりの程度身についてしまいます。

EQについて、私のオススメの本は『ビジネスEQ : 感情コンピテンスを仕事に生かす』ですが、すでに絶版のようです。図書館で見つけるか、他のEQ関連の本をぜひ読んでみてください。

以前紹介した「ボスとリーダーの違い」は、かなりの部分EQのあるなしと比例関係にある気がします。


2015年10月18日日曜日

『ギヴァー 記憶を注ぐ者』を読みました。しかも一ヶ月に2度も。

というTさんが感想を送ってくれました。

初めは9月中旬に渋谷で『ギヴァー 記憶を注ぐ者』の映画を観たのがきっかけでした。迫力ある展開をもう一度味わいたかったのと、なんでこのコミュニティが存在するのか、その背景をもっと知りたくて本を手に取りました。

その後は『ギヴァー 記憶を注ぐ者』の本『ギャザリングブルー』『メッセンジャー』再び『ギヴァー 記憶を注ぐ者』の本と、展開に乗っかって(飲み込まれて?)たった一ヶ月で、『ギヴァー』を二度も読んでしまいました。


何がそんなに自分の心にヒットしたのか。

自分の心の中に描いたギヴァーの世界と、今の仕事、今の教育、今の世の中の問題点とぴったりと(恐ろしいくらい)重なったからかもしれません。

衝撃だったのは・・・

「すべてが同じなのならば、選択のしようがないですよ!ぼくは朝起きて、どうするか決めたいんです!」
ジョナスのふりしぼられた叫び。これって教室の中にいる子ども達の声なのかもしれません。

同一化、予測可能なギヴァーの世界に起こっていることは正解をあてっこする授業そのもののように感じます。
与えられたものを与えられた通りにこなすだけ。
ジョナスのように声が上がらないよう、つつがなく授業をずっと行っていたとしたら、子どもは同一化に向かうだけ。会社も学校も同様で、誰かが決めた事を押しつけられて、それをこなすことに必死になっていたら...やっておくことが無難、ことなかれ的、意味や価値を感じない。自己有能感やモチベーションが高まる瞬間ってどうやってつくっていったらいいのでしょう?


ジョナスの父が双子の一方を解放した後はとても辛かったです。ジョナスの高ぶる感情のあとのギヴァーの言葉もぐさりときました。「かれらは何も知らないのだから」「与えられた人生なのだから」

疑いもせずに平気で過ごせてしまうことほど恐ろしいことはない。そう感じました。


その後、ジョナスがコミュニティを飛び出したあと展開ですが、ここのページ数ってそんなにありません。
でも、読んでも読んでも先に進まない不思議な感覚を味わいました。

色鮮やかな一つ一つの風景の美しさ。
花のにおい、水の冷たさ。凍えながら記憶をもとに体を温める感覚、やっと手にしたジャガイモ。泣きやまないゲイブの声。

自分自身もジョナスといつの間にか一体化して、同一化の世界を飛び出し、じっくり新鮮さを味わう内的な時間をじっくり楽しんでいたのかもしれません。


改めてふり返ってみると、この本を通して
・問うこと(当たり前を疑うこと)
・選択すること
・勇気を持って行動すること
・愛を分かち合うこと
ってどういうことなのか?を問われたように感じます。
これらの問いは以前もどこかで考えたと思いますが、この物語を通して強く鮮明に頭の中に残ったように感じます★★


『ギャザリングブルー』『メッセンジャー』を読み終えて。なんでマティは自分自身をトレードしなくてはいけなかったのか。もやもやしています。今後の展開がとても気になります。

★★最初の1点目は最近読んでいる『たった一つを変えるだけ ~ クラスも教師も自立する「質問づくり」』にもつながりますし、あとの3点はポジティブに生きていく上で欠かせない要素かもしれません。

2015年10月11日日曜日

子どもたちの力を活かす


  ちょうど1か月ほど前にここで取り上げられた『クオリティ・スクール』ウィリアム・グラッサー著について私の方でも取り上げたいと思います。

 
   少し前に、ある雑誌の原稿を頼まれたときに、この本を読みました。この翻訳本が出版されたのが1994年のようですから、多分出版されて間もないくらいの時期に一度読んだ記憶があります。そのころはまだ大規模校の一教員でしたから、この本のいいところはあまりわからなかったように思います。

 
しかし、今読み返してみると実に示唆に富んだ本であることがわかります。

その良さについては、すでにパートナーが指摘しているとおりですので、確認されたい方はぜひ96日の記事を読み返してみてください。

 
私が今回雑誌の原稿を書くときに参考にしたのは、188ページの次の部分です。

 
生徒仲間のカウンセラー
   
ボランティアは大人に限る必要はない。生徒にも関わってもらうとよい。生徒がお互いに援助しあうさまざまなやり方は、教えることからカウンセリングまで幅広くある。最上のプログラムの一つは、生徒のボランティアを訓練して、仲間のカウンセラーとして関わってもらうことだ。
     

このような考え方は今日では「ピア・サポート」という活動として学校に導入されているところもあります。「いじめ」の問題はなかなか根絶するのが難しい問題です。なぜなら、

ネットを通じたやり取り、特にLINEなどのメディアによる子ども同士のかかわりを把握することは現実には不可能だからです。したがって、子どもたちが持っている力を学校の中でもっとよい方向に活かしていくことが大切です。そのための視点をこの本はさまざまな形で教えてくれています。
    

また、190ページの次の部分も大切です。
   

生徒の求めているものは、教職員が絶えずより良くしようと努力している ことが全員に分かるような学校なのだ。
     

  これこそ、管理職の学校経営の基本でなくてはならないと思います。このような学校が現実に少しでも増えることを期待したいものです。

2015年10月4日日曜日

思考の可視化


「思考の可視化」は現在、ビジネスの世界においても、新たな製品開発やプラン作成のための有用な開発ツールとして利用される場面が多くなっています。

先月刊行された「子どもの思考が見える21のルーチン」(R.リチャート/ M.チャーチ/K.モリソン著・黒上晴夫/小島亜華里 訳・北大路書房 \3,000+税)を紹介します。

この本には、ハーバード教育大学院のプロジェクトゼロが提唱する学習プログラム「思考の可視化」を中心に、子どもたちの思考の成長を促していくための方法が語られています。

「プロジェクトゼロ」は、1967年にハーバード教育大学院で芸術教育を研究、改善する目的で設立されました。当初は芸術分野が中心でしたが、その後学習のあらゆる分野に対象を広げていきました。このプロジェクトは、人文・科学・芸術分野での学習、思考、創造性を理解・向上させることをねらいとしています。

私たちは、見たり、聞いたりすることで物事を学びます。見たり、聞いたり、模倣して学んだことを自分の興味やスタイルに合わせて取り入れていくことが学びの基本です。お手本を見ることもなく、ダンスやスポーツを学ぶことはできませんし、音を聞くことなく音楽を学ぶことはできません。つまり、思考を学ぶことは、学習することを学ぶことでもあります。

「思考の可視化」学習プログラムを通して、生徒は自分の思考を自分自身、クラスメート、先生に対して目に見える形で表現できるようになり、学習している問題により深く関わることができるようになります。また、生徒の思考が教室で可視化できるようになると、生徒が自分の思考について考えるメタ認知能力が上がります。生徒にとって学校は単に教えられたことを覚えるところではなく、考えを探索する場になります。教師側のメリットとしては、生徒の既得の知識、理解の度合い、論理的思考が明らかになることにより、課題を把握し、生徒の思考を伸ばすことができるようになります。

 
 本書の構成は以下のとおりです。

 【第1部 思考についての考え】

1章 思考とは何か

2章 思考を教育の中心に

思考に関するブルームの分類を改訂する考え方を説明し、それがより高いレベルの思考を引き出すような教師の質問につながることを解説しています。

 
 【第2部 思考ルーチンによる思考を可視化】

3章 思考ルーチンの導入

4章 考えの導入と展開のためのルーチン

5章 考えを総合・整理するためのルーチン

6章 考えを掘り下げるためのルーチン


 様々な形で思考を深めていくためのルーチンをそれぞれ、目的、内容、進める手順等について解説しています。

この実践を始める最も簡単な方法はプログラムの中にあるルーチンを授業の中に取り入れることです。ルーチンとは、実践的で機能的な思考のための質問集で、様々な学年やどんな内容にでも適用することができます。生徒が学習の過程で何度も用いることにより、次第にルーチンを使って考えることがクラスの文化として定着していきます

ルーチンの一つである「SEE  THINK  WONDER」は次のようなものです。

このルーチンは以下の3つの質問集から成り立っています。

  SEE ・・・・・・・・・・何が見えますか?

  THINK ・・・・・・・・それについてどう考えますか

 ・WONDER ・・・・・・・何が類推できますか?

それぞれの視点から、順番に思考を深める学習活動を進めていき、その評価を行います。

また、各ルーチンには必ず実践例が添付されており、実際に取り組む際のよい参考になります。

 
 3部 思考の可視化に命を吹き込む】

7章 思考が評価され、可視化され、推奨される場をつくる

8章 実践記録から
   
著者のロン・リッチハートは2000年からハーバード教育大学院のプロジェクトゼロ主任研究員です。プロジェクトゼロに参加する以前は、小・中学校の美術や数学などの様々な教科の教師をニュージーランド、アメリカのインディアナ州、コロラド州で経験しました。

彼の教師や研究者としての仕事は、様々な環境での学びにおける思考や理解、創造性を豊かにすることを重視することで一貫性があるものです。

 また、共著者のマーク・チャーチは20年来の教育学者であり、生徒たちの思考や学びを豊かにしようと努めている教師や学校の管理職たちの手助けをすることに特別な関心を有してきました。

 もう一人のカリン・モリソンは教師と生徒の思考や学びに関心のある情熱的な教育学者です。彼女の仕事は、生徒のより深い思考や理解をサポートするための環境や構成を用意することに焦点化されています。
   

 全体の印象としては、図版が少ないので、文字ばかりの印象が若干残ります。一人でこの本を読み通すにはかなりの集中力が必要だと思われます。(ブッククラブが必要かもしれません)
また、事例も掲載はされているのですが、各ルーチンの手順(ステップ)だけを読んでもすぐに実践するのは難しいかもしれません。でも、興味がある方はぜひこの本を読んでいただき、教科や道徳の時間などで活用してみるとよいと思います。ただし、あくまでここで紹介されたルーチンは手段にすぎませんから、目的化しないことが大切です。