2016年2月28日日曜日

みんなの学校


今月7日のこのブログで、2冊の本が紹介されましたが、その一つ、『「みんなの学校」が教えてくれたこと』木村泰子/小学館2015を読んだ感想を書きます。
   
この本で紹介されている大阪市立大空小学校は、ドキュメンタリー映画「みんなの学校」で紹介されたので、映画をご覧になっている方もいらっしゃると思います。

実は、映画になる前に、NHKEテレ(教育テレビ)でも1時間番組で紹介されました。たまたまタイトルにひかれて、録画をしておいたので、しばらくして学生たちと一緒に見ました。インクルーシブ教育の素晴らしいところを指摘する声と、反面なかなか大変な教育だという受け止めが多かったように思います。
   
この本と映画のなかで、おそらく多くの小学校で手のかかるということで、居場所がなくなり、学校に行けなくなった子供たちが、この大空小学校に受け入れられ、育ちあえるところにまで成長していく姿が描かれています。

 
この本のプロローグに校長だった木村さんが次のように書いています。

「みんながつくる みんなの学校 大空小学校は 学校と地域が共に学び 共に協力しあいながら「地域に生きる子ども」を育てている学校です。」

 
「地域とともに」は公立の小中学校に欠くことのできない経営の視点だと思いますし、この大空小学校でも地域の人々が登下校はもちろん、授業のなかでもかかわっている姿が描かれています。
   
また、授業についても、特徴的な実践があります。

大空小学校では毎週月曜日の1時間目に「全校道徳」を展開しています。ここでは、1年生から6年生までの混合グループを作り、テーマに関して話し合いをするそうです。職員や保護者の有志(サポーター)や地域の人々もこの授業に参加し、大人は大人だけのグループを作るようです。ここで、子供たちは話し合うことの大切さや面白さを学びます。これが、「学校の基幹」を築いたと校長の木村さんは書いています。
   
この大空小学校で用いられている手法は、「効果10倍の教える技術」などで紹介されている「学びの主役は子供」という考えが根底にあるので、うまくいくのだと思います。教師が一生懸命に教え込むというスタイルを捨てて、子供の主体的な学びを大切にしているのです。校長の木村さんは、このことを『「自分の電車」を自分で用意させる』と表現しています。

 
このように学ぶところがたくさんある本ですが、注文をつけるとすると、子供の主体的な学びがもっと具体的に数多く描かれていると、さらに説得力のあるものになったと思います。また、「みんなの学校」の映像でも感じたことですが、校長ががんばっている様子はよくわかるのです。しかし、あまりにもその場面が多すぎて、これではこの校長がいなくなったら、おそらく、この学校はうまくいかなくなるだろうということです。研究学校などでせっかくよい実践ができるところまでいっても、研究指定が終わり5年も経てば、その成果も跡形もなくなるという姿をこれまで幾度となく見てきたからです。そうならないための工夫がもしあるのだとすれば、そこまで紹介して欲しかったと思います。

もう一冊の「イギリス教育の未来を拓く小学校」もこの後、ぜひ読んでみたいと思います。

出版元の大修館書店のホームページには、この本の各章のタイトルが掲載されていました。

第1章 成長への新たな指針

時代の流れに逆らう:研究の前提とするもの
もう一つの方法があること
次へのステップ:限界なき学びの創造
物語の展開

第2章 基礎を築く

ありし日のロックザム校
サークル・グループ・ミーティング
ラーニング・レビュー・ミーティング
専門領域チーム
学校全体の継続的な専門職開発
学習を生き生きとさせる
結論

第3章 学びへの自由を広げる

選択の機会を与える
子どもたちの声を聴く
共に学ぶこと
開かれたカリキュラムの経験
子どもたちに自分の学びを評価させる
学びへの自由を広げる

第4章 学びの人間関係を再考する

挑戦、調和そして「ナチュラル・バランス」
共通の理解に向けて
受容の構築とその伝達
共感することの大切さ
確固とした目的を維持する
つながりを結ぶ

第5章 学びを第一に:学校全体で学びの文化を創造する

学校全体で学びの文化を構築する際のリーダーシップの役割
安定した環境
優れた学習者としての専門職共同体を創る
すべての人が学校の学びの文化に関わる
道徳的要請

第6章 集団的行動がもつ力

学ぶ力を変容する力
学校改善に向けた特徴的なアプローチ
現実的関連性、応用可能性、そして示唆
待ち受ける未来:ここからどこへ向かうのか
最後に

これを見ると、大空小学校との共通点もありますが、違いもあります。イギリスのほうがよりシステム思考的なものが多いかなと判断できます。そのあたりはぜひ、次の機会に紹介したいと思います。

2016年2月21日日曜日

人間性を育む授業とは?

前回の「●●を学ぶことによって思考力や人間性が育つような授業をしたい」という多くの先生たちの願いのもう一つの柱は「人間性」です。

ウィキペディアやブリタニカ国際大百科事典で「人間性」を見ても、まったく埒があきません。学会まであるらしいですから、永遠の課題のようです。
以下の2つのサイトなどは、ハウツーものとして、よくできているほうかもしれません。

私にとって「人間性」で大切な項目をみごとなぐらいに押さえてくれているのは、以下の表です。この表に上がっている項目をじっくり味わっていただくと、あなたがイメージしていた「人間性」をはるかに広げてくれるものが含まれているのではないでしょうか? (しかも、価値のあるものばかり!!)


(あるいは、

しかも、ある辞書にあった「人間性」の定義のように、「人間として生まれつきそなえている性質」として捉えてしまうのではなく(それでは、希望がありません!!)、EQにしても、ライフワークにしても、努力すれば身につけられるスキルとして捉えているのがいいです。

では、どうすれば、それらのスキルを身につけることができるのでしょうか?
ライティング・ワークショップ(作家の時間)やリーディング・ワークショップ(読書家の時間)を実践することは、それらのスキルを身につけることを目的に掲げなくても、自然に身についてしまう授業方法です。そんなお得な方法は、他にどれだけあるでしょうか?
その背景には、それらが「学びの原則」や「いい授業の要素」をしっかり押さえていることにあります。



2016年2月14日日曜日

思考力が身につく授業とはどんな授業?

ある先生とのやり取りで、「●●を学ぶことによって思考力や人間性が育つような授業をしたい」という発言がありました。(●●は教科です)
 同じことを願っている先生は(教科に関係なく)多いのではないかと思い、この願いを実現する方法を紹介したいと思います。

 しかし、その前に、「思考力」と「人間性」は日本の教育界ではよく聞く言葉ですが、それらの意味は明快になっているでしょうか?
 文科省は、もう15年だか20年ぐらい前に、これから大切なのは「思考力、判断力、表現力」だと言ったような記憶があります。
 各学校が掲げている学校教育目標の3つか4つの一つには、「考える子」(ないし、そのバリエーション)が必ずといっていいぐらい含まれています。
 いずれにしても、何をすれば思考力が身につき、考える子を育てることができるのかは、依然としてはっきりしていないのではないでしょうか?
 ネット検索で「思考力」を見てみたら、「思考力は考える力であるが、それでは「考える」とはどんな働きであるか。 心理学では、思考という働きは、観察や記憶によって頭の中に蓄えられた内容をいろいろ関係づけ、新しい関係を作り出す働きとみなされている」とありました。あなたのイメージに近いでしょうか?

 教育の分野で、いまだに最も参考になる思考力の説明は、ベンジャミン・ブルームという人によって、もう60年も前の1956年に提示されています。一般的に「ブルームの思考の6段階」と言われています。
 それは、「暗記力-理解力-応用力-分析力-統合力-評価力」です。★
 2001年にはこれの改訂版として、最後の2つを入れ替えた「暗記力-理解力-応用力-分析力-評価力-創造力」が提示されています。★★

 いずれにしても、6段階で提示されることで、具体的に思考力を高めるためには何をすべきなのかが、かなり具体的にイメージできるのではないでしょうか? どういう投げかけや問いかけをしたら、それぞれに対応する力を育てることができる明快なので、とても便利なのです。

 最初の2つの暗記力と理解力を、一般的に低次の思考力、そして残りの4つを高次の思考力と捉えており、これまた一般的な授業では低次の思考力が8~9割を占めるのですが、よく学べる/身につく授業にするには、高次の思考力をそのぐらいに逆転しないといけないとも提案されています。

 その意味では、よく言われる「習得・活用・探究」は、その順番にやればいいというものではないということです。一般的には、習得(暗記・理解)してから、活用(応用)し、その上で探究(分析、評価、創造/統合)するものだと思いがちです。しかしながら、私たちは一番上ぐらいに位置づけられている評価から入ってしまうケースが結構多いのです。大人はもちろん、子どもたちも、です。要するに、これは自分に本当に価値があるのか?役立つのか?を瞬時に判断してしまい、もし答が「ノー」の場合は、適当にテストぐらいまでは「お付き合い」しますが、その後までは・・・ということになるわけです。結果的に、教師は「ちゃんと教えたのに、覚えてないの?」が口癖にならざるを得ないわけです。ちゃんと教えたら(高次の思考力さえつかっていれば)、忘れることはできないのに。

以上は、ある意味でテクニック的な部分についてでした。
より大切なのは、考えるに値する内容をそもそも扱っているのかという大きな問題があります。
思い出してください。算数・数学、国語、理科、社会のテストを。
問題の最後は、「考えなさい」で終わっていませんか?
でも、それらのほとんどの場合は、「答を出しなさい」であり、「覚えていますか?」のレベルのものが多いのではないでしょうか?
最初から低次の思考にしか向かないものを出題者側が扱っている結果です。


★ これについて詳しく知りたい方は、『「考える力」はこうしてつける』や『読書がさらに楽しくなるブッククラブ』『効果10倍の学びの技法~シンプルな方法で学校が変わる!』などを参考にしてください。

★★ Anderson, L.W. (Ed.), Krathwohl, D.R. (Ed.), Airasian, P.W., Cruikshank, K.A., Mayer, R.E., Pintrich, P.R., Raths, J., & Wittrock, M.C. (2001). A taxonomy for learning, teaching, and assessing: A revision of Bloom’s Taxonomy of Educational Objectives (Complete edition). New York: Longman.

2016年2月7日日曜日

比べ読み: イギリスの教育と日本の教育

ほとんど時を同じくして出版された、2冊の本を紹介します。

最初は、私が読んだ感想を書こうと思っていましたが、よりベターな方法として、皆さんに実際に読んでもらうことを思いつきました。

と同時に、当初は、片方のみを紹介しようと思っていたのですが、「比較読み」することで、双方の違いや良さ、そして改善点などまでもが、浮き彫りになると思ったのです。

そして、ぜひ感想をお聞かせください。

●『イギリス教育の未来を拓く小学校 「限界なき学びの創造」プロジェクト』、マンディ・スワン、アリソン・ピーコック他著、大修館書店、2015/7/1

●『「みんなの学校」が教えてくれたこと: 学び合いと育ち合いを見届けた3290日』、木村 泰子、小学館、2015/9/16