2017年2月26日日曜日

好奇心を大切にする


25日のこのブログで紹介のあった『好奇心のパワー』(新評論)の内容についてふれてみたいと思います。


 
「第3章 聴き方を選択する」では、最初のページ(p.65)に次のような言葉が紹介されています。
   
「人間の欲求で最も基本的なものは、人を理解したい、そして人に理解されたいという欲求です。人を理解する最も有効な方法は、人が話すことを聞くことです。

                           ラルフ・ニコルス」

ここに書かれたことは、学校教育において最も大切なことの一つであろうと思います。もっと人を理解しようという営みが学校で行われていれば、無駄なトラブルや、最悪の場合命にもかかわるような悲劇が減るものと思います。生徒指導は子ども理解から始まると言われますが、まさに子供たちの発言に耳を傾け、子供を理解することが出発点です。そのための手掛かりとして、この本はお薦めです。

 
 質問の大切さは度々このブログでも取り上げてきましたが、この本の「第4章 好奇心を示すオープンな質問をする」では、どのような質問を投げかければよいのかがわかりやすい事例を通して語られています。最初のページ(p.87)に次のような言葉が紹介されています。

「賢い人は正解を言わず、よい質問をする

                    クロード・レヴィ=ストロース」

 レヴィ=ストロースは有名な人類学者ですが、さすがに良い言葉を残したものです。

教師は授業の中で、問題・課題に対する解答を教える場面がもちろんあるわけですが、いつもそうであっては子供の思考力は育ちません。「よい質問」で子供たちにじっくりと考えさせ、調べたり、話し合ったりして、考えを深めさせる必要があるわけです。

 
質問にもクローズドな質問とオープンな質問の二つのタイプがあるわけですが、これまでの授業ではこれしか正解がないというクローズドな質問が主流だったわけですが、21世紀になってからはオープンな質問の大切さに光が当たるようになりました。

実際、社会の中では、答えのなかなか見つからない問いがたくさんあるわけですから、このような変化は当然のことでしょう。

 
たとえば、再生医療や遺伝子工学などでは、これまで神の領域と言われてきた事柄にまで人間の科学技術が及ぶようになりました。クローン人間なども決して夢ではなくなってきたわけです。ただ、技術的に可能ならば何をしてもよいのか、このあたりの生命倫理の問題は今後ますます複雑になるものと思います。また、原子力の問題。福島の事故は未だに終息していませんが、国策として「原子力発電技術の輸出」を掲げている現状があります。あの事故の教訓を完全に学び取ったのかどうかわからない状況で、次に踏み出していくという科学技術と経済社会の有り様をどう考えるのか。学校で教えられている「理科」という教科にはそのあたりまでが学びの範囲に入るべきだと改めて思う次第です。

 
 先日、次期学習指導要領改定案が発表されました。例の「アクティブ・ラーニング」という文言が「多義性がある言葉だ」として「主体的・対話的で深い学び」に言い換えられました。そして、新聞報道では特に「カリキュラム・マネジメント」に対して、にわかに注目が集まったとありました。

 
このブログでも、再三「カリキュラム・マネジメント」の重要性については触れてきましたが、特に「ひと・もの・お金」という条件整備が整わない環境での「カリキュラム・マネジメント」は成果を生み出すことが難しいものです。

「教育課程論」の第一人者である安彦忠彦氏(神奈川大学特別招聘教授)も「その種の活動が可能になるような条件整備がよほど伴わなければ、空回りして所期の成果を挙げることは難しい」(日本教育新聞・平成29220日号記事)と述べています。同新聞の同じページには、埼玉県内の校長談が次のように紹介されています。
   

「当初は授業方法の大幅な見直しを求められると身構えたが、それを思うと、大きく変わる印象は受けない。正直、少し拍子抜けした感じだ。」

 
この感想をどう思われましたか? やはり、「アクティブ・ラーニング」という文言が消えてしまったので、こんな印象になってしまったのでしょうか。

しかし、よく考えると「深い学び」を追究するわけですから、これは大変な転換です。

しかも、「学習内容を減らさずに」です。内容を減らして、時間をかけて「深い学び」をやるというわけではないのです。そのためには、当然各学校での「カリキュラム・マネジメント」が必須だというわけです。

 
そのための創意工夫が必要です。「好奇心」という視点を組み込んでも面白いと思います。ある意味、「大変だけれども面白い」時代になったと考えてみたらどうでしょうか。

若い先生方にはぜひそんなInnovativeな気持ちをもって、日々の仕事に臨んでほしいと思います。

 

2017年2月19日日曜日

「好奇心」をもってしまっていいのですか?


 『好奇心のパワー』に対して、以下のような質問をもらいました。


『好奇心のパワー』の内容はとても面白そうですし、教育現場での活用に期待が持てそうです。
一つ質問です。
タイトルにもある、メインテーマとなる「好奇心」は、英語圏あるいは欧米文化の文脈と、日本では意味あいがだいぶ異なる印象を持っています。端的に言えば、英語圏ではどちらかと言えば、前向きで肯定的な意味で捉えられるけれども、日本文化あるいは日本社会では、否定はしないけれどもどちらかと言えば邪魔者、余計なこと、であり、好奇心を必ずしも肯定的には捉えていない印象を持ちます。
それを、本書の刊行に当たってはどのように考えておられたのか、翻訳の際や、編集に際し、何か配慮されたり工夫されたりしたところがあるのか、そこらへんを教えて下さい。

私の回答は、次のようなものでした。

確かに、日本の学校をはじめほとんどの組織で、嫌われるのが本質を突く(好奇心に基づいた)問いでしょうね。会議の席などで、それが出されることはご法度です。そういう暗黙の理解があるというか・・・・

しかし、日本社会が好奇心を肯定的に捉えない限りは、社会自体が浮かばれないことと同義です。
何せ、好奇心がなければ、何事も学べないことを意味するのですから。
(学校に入る前の子どもたちを見れば分かるように!)
アメリカには、「子どもたちは?で入って、!で出てくるところが学校」という言い方があるそうです。
日本の場合は、「小学校の1年生からすでに全員が先生の言う正解に右へならえ」です。
そもそも、教育を何のためにしているのかの「ボタンの掛け違え」をし続けている社会です。
創造力、協力、コミュニケーション能力を培うことなく、ひたすら従順を身につけるところとして存在します。

学びや創造力、協力、コミュニケーション能力だけでなく、変化や成長も拒否し続けることを意味します。

ある意味では、変化や成長を求められることが分かっているというか、こわいので、好奇心に満ちた本質を突く質問を歓迎しないんでしょうね。

それが、みごとなぐらいにhttp://www.tvu.co.jp/program/201701_wonderlesson/
に表されてしまっていました。 とくに前編。(部活と授業は連動しています! なにせ同じ人がやっていますから。)
現職の先生方には、このビデオを見てもらうことが、ひょっとしたら一番の気づきになると思います。思考停止のまま自分がしていることが何なのかに気づけますから。

さらにいえば、このテーマは
の第3章で詳しく論じられています。
アメリカでは、こういうことが常に省みられるわけですが、日本の場合は思考停止に陥っているので、教科書をカバーする以外の授業や指導案を磨いた上で行う研究授業以外は存在しない状態が続きます。
要するには、「学校ごっこ」や「正解当てっこゲーム」としての授業ばかりが横行しています。

最後になりましたが、
の図にあるように、本の最初のうちは「興味関心」と訳していました。

でも、授業や学校の中を含めて、私たちの社会には「無関心(=好奇心の欠如)の悪循環」が渦を巻いている気がします。




2017年2月12日日曜日

質問とフィードバックの効果~学びを継続するための鍵~


 5週間前のPLC便り「振り返りこそが学び/成長の鍵~年間を通して振り返る」http://projectbetterschool.blogspot.jp/2017/01/blog-post_8.htmlでは、子どもたちや保護者も巻き込んでの「振り返り」=「形成的評価」の重要性とその効果について、手紙形式やアンケートによるものなど具体的な方法論と共に紹介されていました。ぜひ、実践していただきたいと思います。 

 「振り返りこそが学び/成長の鍵」であると同時に、学ぶことに対しての興味・関心を高め、学び続けることを可能にするためには、学習者自身(子どもたちや先生方)が、「質問(問い)」をもつことと重要な他者(教師や親・家族、友人、メンターなど)からの「フィードバック」がなされることの二つが、重要ではないかと考えるようになりました。 

その一つのきっかけは、『たった一つを変えるだけ~クラスも教師も自立する「質問づくり」』Dan Rothstein & Luz Santana(著),吉田新一郎(訳)2015年[新評論]や 、『最高の結果を引き出す質問力』茂木健一郎(著)2016年[河出書房新社]、『GRIT~やり抜く力』Angela Duckworth(著),神崎朗子(訳)2016年[ダイヤモンド社]の3冊を読む機会があったからです。 

『たった一つを変えるだけ~クラスも教師も自立する「質問づくり」』では、「生徒たちが輝く授業」=「ワクワクする授業、生徒が主役になる授業、教科書を結果的にカバーする授業」→「テストを過剰に意識しない授業、自分たちの質問に焦点を当てた授業」→「楽しい探求=自分の質問を解き明かす学び」→「テストが終わっても残る、身につく」、そんな子どもたち自身による主体的な学びが実現できるようにするための「質問づくり」の実際について、具体的に紹介されている魅力的な本です。★ 

『最高の結果を引き出す質問力』は、学生や一般社会人を対象に書かれたものです。質問とは、「自分自身との対話」であり、組織や社会・世界・自分の人生を変えるためには、他人に言われたことをやるのではなく、どんなに小さなことでもよいから、自分自身の頭で考えて行動することが大切である。そのためには「質問力」を高めることが必要であり、そのための重要なステップは、「感情力」:モヤモヤとした違和感を感じる力 →「メタ認知力」:自分の感情や状態に気づく力 →「論理力」:論理的にものごとを考える力 の3つである。自分の置かれた現状や生き方・人生を変えるための「いい質問」や「質問力を高めるための具体的な方法・アクション」について書かれています。 

 3冊目の『GRIT~やり抜く力』では、ビジネスパーソンやアーティスト、アスリート、ジャーナリスト、学者、医師、弁護士、大学生、士官候補生、グリーンベレーなど、様々な人々を対象にしたインタビュー調査やアンケート調査、心理学的実験の結果に基づいて、「やり抜く力」について述べています。パート1で「やり抜く力」とは何か?なぜそれが重要なのか?、パート2で「やり抜く力」を内側から伸ばすこと、パート3で「やり抜く力」を外側から伸ばすことについて、エビデンスとともに具体的な方法が、わかりやすく紹介されています。 

 この本の中で印象的だったのが、第10章「「やり抜く力」を伸ばす効果的な方法」で紹介されているデイヴィッド・イェガーとジェフリー・コーエンという二人の心理学者が行った実験です。実験の目的は、「高い期待を伝えるメッセージと」と「惜しみない支援」を組み合わせた場合の効果を検証することでした。 

 実験では、中学校1年生を受け持っている教師たちが、生徒たちの作文に対して、「フィードバック」の言葉を書くように指示されました。「ここをこうしたら、さらによくなる」という提案とともに、いつも書いているような「励ましの言葉」を書くのです。それらの作文は回収され、無作為に半分ずつに分けられました。そして、半分ずつの作文には、それぞれ次のようなメッセージの書かれた付箋が貼られたのです。 

A:「あなたの作文へのフィードバックとして、いろいろコメントを書き入れました。」

B:「あなたなら、もっと作文が上手になると思うので、いろいろコメントを書き入れました。期待しています。」 

 もちろん、どちらの付箋が貼られているか生徒たちにはわからないようにするため、作文はフォルダーに入れたまま生徒に返されました。そして、生徒たちには「作文を手直ししたい人は、ぜひ翌週に再提出してください。」と伝えられたのです。 

 その結果は、Aの内容のメッセージを受け取った生徒の再提出率は40%であったのに対して、Bの内容のメッセージを受け取った生徒の再提出率は80%を超えていたのです。 

 つまり、生徒にとって「重要な他者(教師や親・家族、友人など)」から「高い期待」を込めたプラスのフィードバック、ストローク・はたらきかけを行うことによって、学びに対する意欲を高めることができるのです。このことは、子どもたちだけではなく、私たち大人・教師にとっても同じことがいえるはずです。 

 最後に、「質問」と「フィードバック」の二つを効果的に行うための具体的な方法は、これまでに何回も紹介されてきている「大切な友だち」のやり方です。授業だけでなく様々な学びの場で実践してみてください。http://projectbetterschool.blogspot.jp/2012/08/blog-post_19.html 


★ この本の第4章「生徒たちが質問をつくる」では、中学校や高校の理科における「質問づくり」の実際と問題への対処法について、事例を挙げてわかりやすく紹介されていて参考になります。また、「振り返る」ことの重要性についても、第8章「学んだことについて振り返る」を設け、「学びを促進するためのメタ認知思考」を高めることについて述べられています。

2017年2月5日日曜日

新刊『好奇心のパワー』 


新しく出る本の紹介です。
この本は、私が過去20年以上にわたって、もっとも信頼している教育に関する情報源から得た情報だったので訳した本です。

誰もが、人間関係で困っているのではないでしょうか?
職場で、家庭で、友人関係で。
それを改善するというか、飛躍的によくする方法が紹介されている本なのです。

直接的に教育関係の本ではありませんが、教育が人間関係をベースに行われる営みである限りは、避けて通れない内容を含んでいます。

学びの核に好奇心があることは間違いありません。
私たちは、好奇心がある限りは学び続けます。(「自ら問いを発せられる限りは、学び続けられる」と言い換えられるでしょうか。)
しかし、それが弱くなってくると(質問ができなくなると)、学びの量も質も急激に減ってしまいます。
同じことは、コミュニケーションにも言えるのです。
相手に対して好奇心がもてないと、コミュニケーションの悪循環のサイクルを回すだけです。
それに対して、相手に対して好奇心がもてて、好奇心のスキルを身につけると、好循環のサイクルを回せるようになります。
この本では、図1を図2に転換するための(秘密ではなく)スキルが分かりやすく ~ 職場の事例と家庭の事例をふんだんに使いながら ~ 紹介されています。
秘密ではなくて、単なる「スキル」ですから、誰でも身につけられます。その気さえあれば。

パート2では、好奇心を使って自分自身を理解するための方法も詳しく紹介されています。その中には、自分の価値観(また、それを貫く際の障害となる信念や思い込みについて)や自分が真に望んでいること(そして、それを支える上で大切な限度を設定すること)などが含まれます。

ぜひ、「好奇心のスキル」を身につけて、職場での関係、家庭での関係、教室での子どもたちとの関係を改善してください!

◆例によって、訳者による割引注文を受け付けます。

1冊(書店およびネット価格)2160円のところ、
訳者割引だと   1冊=1800円(送料・税込み)です。
5冊以上の注文は 1冊=1700円(送料・税込み)です。
本は、2月8日発売予定です。
ご希望の方は、冊数、名前、住所、電話番号を
pro.workshop@gmail.com にお知らせください。