2017年7月23日日曜日

「一人ひとりをいかす教え方」って、どういう教え方


まず、「一人ひとりをいかす教え方」は、
・個別指導ではありません。生徒たちを個別化して教えることではありません
・一斉授業が中心ではないからといって、無秩序状態になるわけではありません
・少人数・習熟度別指導ではありません
・ユニフォームを一定の時間までにみんなに着せるような教え方ではありません。はやく着ることのできた人がまだの人を助けたり、別のことをしたり、あるいはなかなか着られない人に、教師が必要以上に手伝ったり、着せてあげたりするようなことではありません。
・特別なニーズをもった一部の生徒のためだけの教え方ではありません。すべての生徒のためのものです。

 それに対して、「一人ひとりをいかす教え方」は、
 ・教師が生徒たちの違いやニーズ(主にはレディネス、興味関心、学習履歴に表れます)を踏まえたうえで指導計画を立てるので、生徒たちは積極的に授業に取り組みます。
 ・できる生徒にはたくさんの(難しい)、できない生徒には少なめの(簡単な)課題をさせるようなにまつわることではなく、それぞれの生徒のニーズ(要するに、!)にマッチしている教え方です。
 ・(日本でも、言葉としてだけは20年以上前から存在している)指導と評価の一体化を実現した教え方です。
 ・何を(学習内容)、どう学ぶのか(学習方法)、そして学んだことをどのように証明するのか(=成果物)の3つで、生徒たちに選択肢が提供される教え方です。
 ・生徒たちが熱中して取り組め、意味を感じられ、そして興味が湧くものに対しては、よく学べるということを(そして、生徒たちすべてが同じものに熱中し、意味を感じ、興味が湧くわけではないことを)ベースにした教え方です。これも、上記の選択肢を提供することで、実現できます。
 ・クラス全体、小グループ、個人を対象にした学びが柔軟につくり出されます。
 ・常に臨機応変で、有機的で、ダイナミックな教え方です。
  (出典: How to Differentiate Instruction in Academically Diverse Classrooms, 3rd Edition by Carol Ann Tomlinson, March 2017

 以上を図にすると、次のようになります。
 (出典:『ようこそ、一人ひとりをいかす教室へ』キャロル・トムリンソン著、北大路書房、p.24

この図では、上から下まで、5列の情報が紹介されています。
 一番上は、「一人ひとりをいかす教え方」が、生徒のニーズに対応するものであることと、人の能力は常に変わりうるという「成長マインドセット」をベースにしていることが確認されています。
 三列目は、生徒が実際に学ぶ際/教師が実際に教える際の4つの要素を示しています。
 四列目は、生徒たちの異なるニーズを大きく三種類で説明しています。
 一番下の五列目には、三列目の要素を実際に実現する具体的な教え方の名称のいくつかが表示されています。詳しくは、『ようこそ、一人ひとりをいかす教室へ』の第6章~第8章で紹介されています。
 そして最後に、二列目の「一人ひとりをいかす教え方」を行う際の原則がある意味では一番大事かもしれません。ここでは、5つが紹介されています。

 二列目の一番左側は、学びのコミュニティーが大切だということです。
 二番目の「質の高いカリキュラム」は、「熱中して取り組め、意味を感じられ、そして興味が湧く」内容であることが不可欠です。それは、学習指導要領と教科書を踏まえながら、教師しか作れないものです。生徒たちに会ったこともない教科書の執筆者には作れません!
 三番目は、「指導と評価の一体化」を実現していることです。
 四番目は、冒頭の「一人ひとりをいかす教え方」ではないものと、「一人ひとりをいかす教え方」であるものの中にほとんど含まれていました。
 最後は、「一人ひとりをいかす教え方」が無秩序ではなく、秩序正しく運営されることを確証しています。

3日前に、DI(一人ひとりをいかす教え方)のサイトを覗いてみたところ、次のような図を見かけました。(図2の英文)
今回、一番紹介したかったのは、「一人ひとりをいかす教え方」が「常に臨機応変で、有機的で、ダイナミック」に変化し続けるものだということです。そのためには、ここまでの情報が欠かせないと思って紹介しました。

 一番変わっていたところは、先ほどの『ようこそ、一人ひとりをいかす教室へ』の図で最後に説明した上から二列目でした。
 こちらの図では6つに増えています。学習環境と学習の決まりごとの運営は、学びのコミュニティー1つにまとめてしまったようです。そして、「生徒の多様性に応じた教え方」がrespectful tasksflexible groupingteaching upに分けられているようです。respectful taskflexible groupingはこれまでの説明で分かると思いますが、一番意味が分かりにくいteaching upを説明します。

 これについては、『ようこそ、一人ひとりをいかす教室へ』では、表2.1で説明されています(この表は、まだ残り半分あります! とても比較がいのある項目ばかりです)。私たちは、このteaching upを「豊かな高みを設定して教える」と訳しました。

 そして、著者に尋ねて得られた回答をもとに、訳者あとがきの中で次のように説明しました。

「教師が授業をデザインする場合、たいていは典型的な学年レベルの生徒をまず心に描きます。次に、その授業をもっと進んだ生徒に合うように膨らませ、学習に困難がある生徒のためにその授業のスリム化をはかります。けれど、私たちの取り組みも含めた諸研究の結果は、授業のデザインをより進んだ生徒たちをまず念頭において開始した時に授業がより豊かになり、より多くの生徒がより豊かで複合的なカリキュラムに取り組むことができるように様々な足場を提供することによって、一人ひとりをいかすことが可能であることを示唆しています。したがって、“teaching up” とは、豊かで複合的なデザインを施した授業づくりから取り組みを開始し、生徒が「水で薄めた」ような課題ではなく、しっかりとしたやりがいのある課題に取り組む機会を得ることができるように、種類や程度の異なる多様なサポートと足場を提供することを意味します。」(243~244ページ)

 この点を含めて、夏休みの間にぜひ『ようこそ、一人ひとりをいかす教室へ』を読んでみてください。最初から最後まで、刺激にあふれた本です。


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