2012年5月30日水曜日

『てん』の教訓 ③


 『てん』は、各自で読んでその内容に浸ってもらったり、読み聞かせをして考えてもらうこともできますが、他の方法でも使えます。
 たとえば、以前に紹介したライティング・ワークショップの研修会では、受講者に読み聞かせをした後、「主人公のワシテがなぜ絵を描けるようになったのか」を4~5人のグループでブレイン・ストーミングしてもらうのです。
 出されたリストの中から3つを紹介します。

◆ このリストから、文章を書くことも含めた教える際の多様なヒントが得られると思いませんか?
絵本は、これほどパワフルな教材にもなり得るということです。









2008年2月9日に横浜での研修会で実施(講師:甲斐崎 博史)

2012年5月27日日曜日

「てん」の話から学ぶこと

「てん」のお話は今回吉田さんの紹介で初めて知りました。周りの大人の評価や対応で、子どものやる気は簡単にしぼんでしまうことがわかります。
ワシテの先生は、真っ白なままの画用紙を見て「ふぶきのなかの北極熊ね」と。なかなかこうは言えません。その「てん」が、額に入れて飾られ、展覧会まで開かれるとは。
このあたりは、教師の教材・教具の工夫や授業の展開のしかた、個に応じた指導法などにつながるものです。このお話のワシテはどんどんやる気になっていきます。
そして、周囲にもどんどんいい連鎖がつながっていきます。
これこそ、「学びの共同体」ですね。

ワシテの先生のような対応ができるようになるためには、やはり豊かな人間性、知識、思考力、判断力などが必要になるでしょう。それには、教師自身が学び続けることが不可欠です。
最近、いろいろな場面で次のようなことを感じます。
教師という職業には、「好奇心」という言葉が適切かどうかはわかりませんが、「何でも見てやろう」「わからないことを知りたい」「気になることを追究したい」というような態度が必要なのだということを。

最近、橘 玲(たちばな れい)の「かっこ日本人」(幻冬舎)という本を読んだのですが、そのなかに「農耕社会には『進歩』という概念がない。農耕というのは、春に種を播いて秋に収穫するという同じ営みの繰り返しだ。・・・・この世界観が前提となって社会がつくられている。」という文章がありました。
これはまさに学校社会そのものでもあります。春に入学式があり、次の年の冬の終わりに卒業式を迎えるというサイクルは毎年変わりません。したがって、そこにいる人々は自覚しない限り、「進歩という概念」のない「ぬるま湯」につかることになります。もっとも、最近はときどき、このぬるま湯も外からの刺激で急に熱くなったり、時には熱湯に近くなったりもします。
 外からの刺激で「熱く」なるのではなく、その内部にいる人の力で、適温にしていくのが校長のリーダーシップであり、マネジメントなのだろうと思います。

 日本の教育界はやや大げさに言うと、今後10年以内に、それを支える教員の三分の一が入れ替わるという大変動の時代を迎えることになります。その世代交代をうまくやっていくためにも、ますます教師が学び続けられるかどうかが問われることになります。

 管理職やベテラン教員は、若手教員の育成に知恵を出し合いましょう。
 そして、忙しいなかではありますが、互いに学び合いましょう。

2012年5月24日木曜日

『てん』の教訓 ②


早速、『てん』への反応を送ってくれたK先生の「教頭通信」から(『てん』はすでにK先生のお気に入りの一冊だったそうです)の引用です。


「せんせい」のアドバイスで「ワシテ」は自分を発見しました。彼女の個性が輝き、光りはじめる躍動感は忘れることができません。振り返って自分は「ワシテ」と比べてどうだろうとも思うのです。
また、「せんせい」のような教師になれているのかとも思うのです。「教える」ことは才能を伸ばすという目標に向かう行為です。自分が「せんせい」だったとしたら「ワシテ」の才能を潰したかもしれない……そう思うと、「せんせい」になるために、よく生きなければならないと思うのです。


まだ、『てん』を読めていない方は、ぜひ!!
そして、どんな感想や思いをもったか、教えてください。★


★ いま「ブッククラブ(本の読み会)」についての本を書こうとしています。
  日本では、読解教育をはじめ、正解に絞り込んで行くような読み方が練習されますが、ブッククラブはその逆で、読みを広げたり、深めることが特徴です。読みに正解などあるはずがないのですから。その過程では良好な人間関係まで築かれます。それは、同じ本を複数の人が読んで、感想や意見を出し合うことによって可能になります。(もちろん、常に誰かがリードする話し合い=その人に合わせるような話し合いから、参加者全員が対等な立場で行える話し方への転換が必要です。)読解の授業や輪読会ではなかなかそうはなりません。
  本を読む目的と方法は、授業をする目的と方法、学校を運営する目的と方法(、さらには社会人になってから仕事や活動をするときの目的や方法)ともつながっています。ここにも例の「入れ子状態」が!!

2012年5月20日日曜日

スイッチがオフになる校内研修・教員研修(=『てん』の教訓①)


5月6日は「教育課程を考える」をテーマに白鳥さんが書いてくれていましたが、その内容は校内研修・教員研修についてでした。

あなたは、そこで提示されていた2つの問いにはどのように答えたでしょうか?

校内研修・教員研修と前回の絵本『てん』を絡めて考えると、今回の表題になってしまいました。

『てん』の中の主人公ワシテは、お絵かきの時間であるにもかかわらず完全にスイッチがオフになった状態で、何も描けません。★
圧倒的多数の教師たちも、校内研修や教育委員会主催の悉皆研修の時間は、スイッチがオフになります。
そもそも、これまでに役に立つ(ないし身につく)校内研修ないし教員研修を体験した方はどのくらいいるでしょうか?
先日ある中学校で聞いてみたら、ほぼ全員が「ない」とはっきり答えてくれました。

何も絵を描けないワシテに対して先生がしたことは、まずユーモアをもって接しました。「あら、吹雪の中の北極熊ね」と。
次に先生は、「何か印をつけてみて。そしてどうなるかみてみるの」と促すと、ワシテはマーカーをつかんで紙に力いっぱい押し付けて小さい『てん』を書きました。かなりいい加減な対応でした。
先生は、その作品(?)にワシテのサインをさせました。
そして、次の週お絵かきの教室に入ると、なんとそのワシテのサイン入りの『てん』が金色の額縁に入って先生の机の上に飾られていたのでビックリ!!
「ふーん! もっといい点だって私描けるわ!」と一念発起して、これまで開けたこともなかった水彩セットを開けて、ワシテは爆発したようにいろいろな『てん』を描き始めたのです。★★

こんな状態を、校内研修や教員研修でつくりだせたらいいと思いませんか?

もちろん、授業でも

            <以下は、メルマガからの続き>


そのためには、これまでしてきたことを同じようにやり続けるだけではダメです。
ワシテの先生がしてくれたようなことをほとんどの教師は校内研修や教員研修で体験することがありませんから、研修が始まる前からワシテもそうだったようにスイッチがオフになったままで、最後を迎えます。校内研修や教員研修は、圧倒的多数の教師にとって、がまんする時間、耐え忍ぶ時間、お付き合いの時間、活かすことが得られない時間、「研修はした」という実績を残す時間、内職をする時間、眠たくもないのに寝る時間(あるいは、ちょうど疲れているので寝る時間)等々であり続けています。

では、どうしたらいいのでしょうか?
ワシテが主体的に描き出したように、教師たちが主体的に学ぶことは可能にできるのでしょうか?

可能です!

キーワードは、「選択」「サポート/フォローアップ」「仲間がいる」「浸る時間の提供」「従来の機能していない枠組みとは異なる機能する枠組みで実施する」の5つです。
これは、従来の機能しない作文指導を改めて実践しているライティング・ワークショップという教え方・学び方がなぜ成功しているのか要因分析をした結果得られた5つの要素と同じです。★★★

このことから、いい教員研修といい授業は「入れ子状態」★★★★にあることを証明しています。

授業中の生徒たちや、研修中の教師たちには、これらの要因を自分たちで作り出すことは残念ながら困難ですから、授業では教師が、研修では管理職や教育委員会がしっかり提供することが極めて重要です。(残念ながら、まだできているところはほとんどありません。)



★ 多くの子どもたちは、ワシテと同じようにお絵かきの時間にスイッチがオフになるだけでなく、作文の時間、読書の時間、算数の時間、理科の時間、社会の時間等にもオフになっています。

★★ この本『てん』のいいところは、ここで終わるわけではありません。もっと発見がある本ですから、ぜひ現物をお読みください。

★★★ これら5つの以外に、いい授業/いい研修会の要素をご存知の方は、ぜひ教えてください。お願いします。

★★★★ 同様の形状の大きさの異なる容器(重箱)やロシアのマトリョーシカ人形を順に中に入れたもの。





 

2012年5月13日日曜日

『てん』

『てん』は、ピーター・レイノルズ作/谷川俊太郎訳の絵本です。

ぜひ、この本を読んでいただき、気づいたこと、考えたこと、発見したこと、これからやろうとしたことなど何でも感想をお聞かせください。(例によって、下のコメント欄か私信でpro.workshop@gmail.comにお願いします。)

2007年にこの本の存在を知ってから、私は事あるごとに(教員や管理職や指導主事や保護者対象の研修等で)これを読み聞かせしています。

* もし『てん』以外に、学校経営や授業改善のヒントになる絵本をご存知の方は、ぜひ教えてください。

ちなみに、この本と同じ時に知った本が『ギヴァー』でした。
両方とも、小学生以上にオススメです。特に、教育者には。
『ギヴァー』は、1995年に講談社から出ていたのがすでに絶版になっており、普及のしようがなかったので、新しい訳で再刊してしまったぐらいです。(それほど、価値のある本!!)まだ読まれていない方は、こちらもぜひ読んで感想をお願いします。


2012年5月6日日曜日

教育課程を考える

全日本中学校長会という組織があります。ふつう、略称で「全日中」と言います。
 これは全国の中学校の校長で組織しているものです。そこで毎年発行している報告書があります。ここ数年は「新学習指導要領の全面実施に向けた取組に関する調査」が出されています。23年度の調査研究報告書のなかから、いくつかのデータを紹介してみます。
 まず、「校内研修の時間確保について」という設問があります。
 回答の選択肢は次のとおりです。

 ア 特に考えていない
 イ 一日の時程を工夫して確保する
 ウ 土曜授業により時数を確保する
 エ 長期休業日の短縮により確保する
 オ 特別活動や職員会議の時間を削る
 カ 校内研修を縮減する
 キ 検討中である
 ク その他

回答結果は上位3つが「イ」43.9%、「キ」23.9%、「ア」11.4%です。
 この調査の期間は23106日から114日でした。また、調査対象は全国すべての都道府県から5~6校を抽出して行われ、回答校数は280校です。

 ここで、ちょっと驚くのは「ア」の「特に考えていない」が11.4%もあることです。
 翌年の4月から授業時間数が増えるのはわかっているのですから、もう10月あたりから「校内研修の時間」をどう生み出したらいいのかを管理職なら考え始めるはずです。  
これまで通りにはいかないことは明白ですから「考えていない」では済まされない問題です。たぶん年が明けてから周りの学校の様子を聞いてあわてて対策を考え始めるか、あるいはそのまま「特に何の対策も講じること」なく新年度を迎えたのではないでしょうか。そんな学校ではどんな「校内研修」が行われているのか、「推して知るべし」かも知れません。

 次に人材育成に関して、次のような設問があります。
「教員の人材育成について、教育委員会主催の悉皆研修や任意参加の研修等に教員が参加することで十分に対応できていますか」
 回答の選択肢は次の通りです。

 ア 十分に対応できている
 イ おおむね対応できている
 ウ 十分に対応できていない
 
 回答の第一位は「イ おおむね対応できている」が50.4%、第二位が「ウ 十分に対応できていない」33.9%でした。
全体の半数の学校が「おおむね対応できている」と回答していることは、ちょっと楽観視しすぎているという感じです。以前にもこの問題にはふれましたが、学校の外での研修はほとんど役に立っていません。これは吉田さんもその著書で指摘されているように「今の自分の仕事につながることがほとんどない」からです。また、教委主催の研修で学校代表を一人ずつ集めて行う研修も、所詮一人では何も変えられないから無駄に終わってしまいます。
だからこそ、校内での研修が資質向上につながる大切な機会なのです。

33.9%の学校は「十分に対応できていない」と回答しているわけで、その分、校内での研修で何とかしようと考えているとも受け取れます。そのためには、次年度の教育課程を組み始めるころから、時間をどうやって生み出そうかを考えなくてはならないのです。
したがって、「特に考えていない」では決して済まされないということがこのデータからもわかることになります。
校長は次年度のカリキュラムをどうするかを、決して教務主任などの担当者任せにしてはならないのです。でも、古いタイプの校長は案外このあたりがいい加減なのだと思います。学校改革はつまるところ「校長養成の問題」であると言ったら言い過ぎでしょうか。