2013年5月26日日曜日

歴史に学ぶこと


教育関係の図書ではないのですが、「バブルの死角」(岩本 沙弓・集英社新書 760円+税)を紹介します。

そのタイトルにもあるように経済の話なのですが、今やアベノミクスで日本経済もようやく上向き加減になりつつあるようです。もっとも、ここ数日はまた株価の急落などがあって、どうも不透明なままの気もします。

日銀総裁が代わって、積極的な金融緩和策が推進されました。50兆円近いお金が国債購入という形で市中の金融マーケットに流れていきます。この本では、かつての日銀の金融緩和策の結果、そのお金がどこに流れ込んでいったのかを分析しています。多くの方が直感的に理解しているように、かつての緩和策のときに市中に出されたお金はアメリカの金融マーケットに流れ込みました。(2000年代初めです)

結果的にアメリカの経済を下支えすることに貢献しました。そのときはドル高・円安だったのですが、しばらくすると、リーマンショックというのが起きて、ドル安・円高の逆方向に振れました。これによって、アメリカは日本から借りたお金の何割かを借金棒引きで負債を減らすことに成功しました。

今回も、今はドル高・円安の方向で進んでいますが、程よいところで、また逆方向に振れるのではないでしょうか。

それで、日本が貸したお金の何割かは踏み倒されることになるのです。日本人は心やさしい民族ですから、同盟国アメリカのためなら「まあまあ」と言って許す人も多いのかもしれません。(この間、立川志の輔さんの落語を聞いていたら、アメリカ人は「YES or NO」の二者択一だけれど、日本人はその間にある「or」を取って「まあまあ」を選択するという笑い話がありましたが、その「まあまあ」なのでしょう)

こんな分析がこの本を読むと手に取るようにわかります。

ぜひ、ご一読をお勧めします。

国民の中間層の所得を押し上げてくれる経済政策なら何も言うことはないのですが、どうも一部の大企業、既得権益者だけが大儲けをすることになりそうなのが、今の景気の行く末のような気がします。今度バブルがはじけたら、本当に貧困層に転落してしまう国民が多数出てきてしまうような悲惨なことになるでしょう。

まずは、知ることです。「歴史に学ぶこと」の重要性を今こそ大切にしたいものです。

2013年5月20日月曜日

大阪市「学校案内」に学テ成績も掲載


 慰安婦問題でマスコミを賑わせている橋下さんは、以前から学力テスト大好き人間です。
 それが、今回はここまで徹底されるというのです。
 これは、プラス面はほとんどなく、マイナス面満載で、教育という名のもとにしてはいけないことの典型例です。安倍さん大好きなこころの問題なども、同じ範疇に入ります。★
 くれぐれも、他では真似をしないことをオススメします。
 誰にとっても、よくありませんから。
 とくに、当事者の子どもたちと教師には。

大阪市教委は、来年4月から半数の区の市立小中学校で学校選択制が導入されるのに備え、全国学力テストの学校別成績や、高校への合格実績などを記した保護者向け「学校案内」を発行する方針を決めた。

学校の成績を開示するかどうかは各校の校長の判断となるが、市教委は「学校選びの材料にしてもらうため」として、各校に積極的な開示を求める。学校現場からは、学校の序列化を懸念する声があがっている。

学校選択制は、学校間の競争によって学力向上を目指す橋下徹市長の強い意向で導入される。来春市内24区のうち12区で始まり、残りの区も2015年度実施に向けて検討が進む。

来 春始まる12区について、区ごとに小中学校の案内をまとめた冊子を作り、9月に各区内の保護者に配布する予定。各校の教育目標や部活動の状況などに加え、 各校長の判断で、12年度の全国学力テストの学校別平均正答率を盛り込む。校長は、保護者や地域の代表者らでつくる学校協議会の意見を踏まえて判断すると いう。中学校については、卒業生が進学した高校名なども紹介する方針。 2013年5月20日10時10分  読売新聞)


 世の中の動き(もちろん、日本以外の話しですが)は、学力テストを軽視する方向で動いています。それが人の能力で測れるのは、20分の1(せいぜい多くて10分の1)ぐらいでしかありませんから、ことのほか強調するものではないわけです。
 競争することがいまの世の中で求められていることでもありません。協調する、コミュニ ケーションが取れる方がはるかに大切です。たとえば、経済産業省が出している「社会人基礎力」を見てください(これは、産業界が雇用する人間に求めるもの ですが、かなりの部分は「社会人」一般に求められるもの、と解釈できます)。いったい、これらのどれだけがテストでいい点を取ろうとする努力で得られるでしょうか?
 これらが身につくような場としての学校が求められているのであって、テストの点数を上げることが求められているのではありません。(それに焦点を当てることによって、人格をゆがめさせたり、身につけるべき能力を無視したりと、マイナス面のほうがはるかの多いのが現状です。)


★ 先日、提案された「6・3・3制」を弾力的に運用 ~ 「4・4・4制」「5・4・ 3制」も可能に ~ も、この範疇に含まれます。要するに、問題はこういうところにあるんじゃないんですね。制度をいじっても変わりません。混乱するだけ。
 求められているのは、(1)教師や子どもたちを信用し、任せることであり、(2)資質向上を図ったり、コミュニケーションが取れるように最大限のサポートをしたり、阻害要因を撤廃することです。

2013年5月19日日曜日

コミュニケーションの大切さ


前回の吉田さんの記事を読んで、確かにその通りだなと思いました。

管理職と一般教員の間の壁。
 

近年、ますますこの壁を高くするような施策が行われてきました。主幹教諭や指導教諭という職種を増やして、それまで鍋蓋と言われてきた学校組織がかなり変わりつつあります。組織としての側面を強調するあまり、管理が前面に出すぎては、下の者はやる気をなくします。そこを埋めていくのが、本来コミュニケーションなのでしょうが、みんな忙しすぎて、他の人のことなど構っていられないということなのでしょうか。
 

 今、大学で4年生のセミナークラスを担当しています。学生にはどんな就職先であろうとこれからはコミュニケーション力が最も求められることなので、セミナーの時間には今さらという気もしますが、コミュニケーション力の強化に力を入れているところです。
 

 実際、教師になると最も大切な力がこのコミュニケーション力でしょう。子どもたち、保護者、同僚教師との関係づくりこそ、教師という仕事を成立させるために必要な最大の力だと思います。これは私見ですが、コミュニケーション力の高い人はバランス感覚にも優れていると思います。何でもそうですが、どんなに優れたやり方でも、それだけで突っ走ると落とし穴に嵌ることがあります。そんなときに必要なのがバランス感覚です。
 

 ところで、最近ある会合で気になることを聞きました。それは、政権が交代して、文教政策もかなり転換するという話でした。特に、教員養成の段階では、これまでの「資質向上」から「教師としての使命感」が最優先されるという点です。

 これを聞いて、この国の教育施策はまた十年逆戻りすることになりそうだと感じました。「使命感」は大学の養成課程で教えられるものなのかどうか、むしろ現場に出て、やりがいを感じる中で、使命感が高まるのではないか、そんな風にも思えます。

 新たな施策立案の中心にいる教育再生実行会議のメンバーには、教育現場とのコミュニケーションを十分に図ってもらい、現場のやる気が高まるような施策を進めてもらいたいものだと思います。

 

2013年5月12日日曜日

何も変わらない/起こらない理由


昨年度末で退職した校長3人+県の教育委員会に長いこといた元指導主事の人と以下のようなやりとりをしました。

  最近とみに感じることは、校長で教職員とコミュニケーションが図れる人が
いないのではないか、ということです。
  両者が、別世界の住人という感じすらします。
それぞれが、領域を侵してほしくない、という関係です。
  違いますでしょうか?

「同じ構造は、教師と生徒、教育委員会と学校、文科省と教育委員会、教育センター長と職員など、すべての間に存在していると思います。
コミュニケーションがとれないのでは、何も変わりようがありません。コミュニケーションをとろうとさえしない人が圧倒的多数ではないでしょうか? その方が楽ですから。」
という内容まで付け加えましたが、だれも反論する人はいませんでした。そして、こんな反応をくれた人も:

「別世界の住人」という言葉は言い得て妙だと感じます。
本当は同じ目的に向かって歩むべき人たちなのに、
敵味方のようになってしまうのですよね。

コミュニケーションはすべてのベースです。(夫婦や親子関係ですら?!)
それがないと、何も生まれませんし、変わりません。

コミュニケーションを図る方法はいくらでもあります。
たとえば、インタビュー、ブッククラブ、哲学クラブ・・・

なんとかしたいという方は、ぜひ『効果10倍の学びの技法 ~ シンプルな方法で学校が変わる』(PHP新書)と『「学び」で組織は成長する』(光文社新書)をお読みください。

でも、問題は知識やノウハウではないんだと思います。
コミュニケーションを本当に図ろうとする姿勢というかスタンスの問題が、少なくとも8割方は占めている気がします。

あなたの学校(や教育センターや教育委員会)では、コミュニケーションがとれていますか? 授業や学校を変えていくレベルで。

2013年5月5日日曜日

あなたのメンターは誰ですか?


 今日は、こどもの日。
 NHKの「日曜討論」では、教育問題についてがテーマでした。
 でも、とても聞いていられる内容ではないので、そうそうに切り上げました。(特に、聞こうとしてスイッチを入れたわけではなく、朝食をとっているときに、8時50分からラジオをつけていた延長上に、それを聞いただけに過ぎませんでした。)

 さて、成長し続けるのに欠かせないのが、いいメンターの存在です。
 メンターは、単なる先輩ではなく、自分を引き上げてくれる先輩/師匠的な存在のことです。

 もう7年前になりますが、白鳥さんとジョージア州のある教育委員会(そこは、教育委員会ぐるみでPLCを推進していました)を訪ねたとき、教員同士の挨拶に「あなたには何人のメンターがいますか?」を使っていたのでビックリしました。★
 それほど、効果的だというのです。

昔は、日本でもそういう存在は当たり前だったのかもしれませんが、ここ30~40年は聞かなくなってしまいました。

 そういうモデルにしたいような人がいなくなってしまったからでしょうか?

 それとも単純に、コミュニケーションをとる機会がなくなってしまったので、人のもっているいい所に気づけなくなってしまっただけでしょうか?

 いずれにしても、昔よりは自分のメンター(良き先輩/師匠)といえる人を探し出すのはシンドイご時世です。

 私の場合は、それを身近な人ではなく、書き手に求めています。
 それぞれの分野(PLC、教員研修、評価、ライティング・ワークショップ、リーディング・ワークショップなど)で、何人ものすぐれた書き手=メンターを持っています。これらの中で、唯一の日本人はいまのところ前にも紹介した鶴見俊輔さんです。しばらく前は、田中正造と宮本常一が含まれていました。★★「自分も、ああいうふうでありたい」というモデルを提供してくれる人のことです。過去の人や書き手は、逃げないのでオススメです。

 皆さんの周りを探しても見つからない場合は、ぜひ本の中から探してみてください。必ず成長し続ける糧を与えてくれるはずです。


◆大切なおまけ: あなたの周辺にいる先生たちで

1) テストの点数や通知表の記号や短い文章で、子どもたちがよりよく学べると思っている教師はどのくらい(何割)いると思いますか?

2) テストの点数や通知表の記号や短い文章で、自分の教え方が改善すると思っている教師はどのくらい(何割)いると思いますか?

●答えてもいいという方は、2つの数字を吉田(pro.workshop@gmail.com)までお送りください。


★ このメンタリングという方法は、『「学び」で組織は成長する』で紹介している22の方法の一つです。

★★ 一度メンターになった人は消えない、と思います。
  その意味では、私にとっては『ワールド・スタディーズ』という一冊の本もメンターであり続けています。その関連で、カール・ロジャーズにつながりました。『ワールド・スタディーズ』を開発した人たちが、彼の影響、特に『学習する自由』の影響を強く受けていたからです。私がそれを知ったのは1995年のことで、その時すでにロジャーズは亡くなっており、彼の弟子的な存在の人が再編集して出した本が第3版でした。これほど、興奮する教育書に出会ったのは、はじめてでした。その第3版が日本語に訳されたのは、2006年になってからです。この時差は、大きいです。でも、訳されたことだけでも良しとすべきかもしれません。